アンリとベンゲルが辿り着く場所

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アンリとベンゲルが辿り着く場所

2007年05月23日

ベンゲルだけが僕の成功を信じていた。だから僕の成功は全てベンゲルの功績だよ
アンリ ベスト100ゴール(DVD)のコメントより

ヨーロッパのサッカーシーズンが終わろうとしている。少し気が早いのだろうが、移籍の話題が活発にメディアを賑わす季節がやってくる。
今年の移籍の話題は(というか、今年もと言ったほうがよいのだろうが)、フェルナンド・トーレスとエトー、そしてティエリ・アンリの3大移籍話だろうか。

ティエリ・アンリは今年、怪我もあってよいシーズンとはいえなかった。本来ならアーセナルも新しいスタジアムになり、チャンピオンズリーグにも優勝して、やっぱりベンゲル監督の元に残留してよかった、というシナリオがやって来るはずだった。
しかし、そうはならなかった。

一方で、リバプールもチェルシーもマンUも、企業として資本を充実させ、アーセナルより一回りビッグクラブになってしまった。
世代交代を進めている今、プレミアで優勝し、チャンピオンズ・リーグを勝ち抜く力が、果たしてアーセナルにあるのだろうか?
一応、移籍を否定しつつも、アンリが移籍の可能性について、考えているのは間違いないだろう。

ベンゲル監督とアンリの師弟関係はよく知られている。
当時ユベントスでサイドプレイヤーとしてくすぶっていたアンリの才能を見抜き、「真ん中でプレイしてみてはどうか」とセンターフォワードにアンリをコンバートした。
アンリがゴールを決めたシーンでは、いつでも本気で喜ぶベンゲルの姿が映しだされた。まるで自分の子どもがゴールを決めた父親のようだ。

「アーセン(ベンゲル)は常に僕を信頼してくれている。彼は僕をセンターフォワードとして起用したが、人々は彼の決断を過ちだと思った。(中略)彼だけが僕の成功を信じていた。だから僕の成功は全て彼の功績だよ」

謙虚な言葉だが、アンリのフォワードとしての本質は「傲慢」さにある、と僕は思う。
圧倒的な縦へのスピード、見た目の細さ、少し気が弱く見える外見、正確なインサイドのパス、そういった要素を見れば、僕がもし監督でも、アンリをサイドに置くだろう。
しかし、恐らくベンゲルが見抜いたのは、彼が持つ、傲慢さなのではないか、と思う。

ティエリ・アンリのゴールシーンを繰り返し見ていると、ゴール前での落ち着きとふてぶてしさは、持って生まれたものだ、というのがわかる。
ハーフラインよりも手前からドリブルをはじめる。スピードを上げて、ディフェンダーと向き合う。無駄なことはせず、一瞬スピードを緩める。足元では、アウトのシュートをディフェンダーにずっと意識させておいた。一瞬で進む方向を変える。ディフェンダーのタイミングがずれた瞬間に、綺麗にインサイドでカーブのかかったゴールを決める。
まったく落ち着いていて、傲慢この上ない。

森の小動物のような顔をしているくせに、ゴールを決めた後がまたアンリは傲慢だ。
「さあ、僕はゴールを決めたよ。君たちの声をたっぷり聞かせてくれ」
そんなセリフがかぶさるように、アンリは目を閉じて耳を澄ませる。

「僕は他の人にしてみたら傲慢なことをやってしまうかもしれない。でもそれが僕のプレーだ。ゴールできればオーケー、失敗すれば批判される。リスクを負うのが好きなんだ」

ベンゲルがアンリにかけた魔法は、世界一成功したコンバートの一つだと言えるかもしれない。

才能のある子どもたちはたくさんいる。しかし、一方でその才能が花開くことなく、サッカーの第一線から、消えていく姿もたくさんある。
誰しも自分に自信が無くなることはある。サッカーよりも楽しいこともちらつく。変化にすぐに適応できないことも多い。失敗が少しでも続けば、監督の言った言葉を素直に受け止められないこともあるだろう。

もう一つは、とても難しい問題だが、信頼や誉め言葉が、かえって仇になる場合も珍しくない。誉めてくれた相手への依存度が増してしまう場合だ。
監督から誉められると、監督やコーチの顔を気にして、かえってパフォーマンスを落としてしまう子どもたちもいる。
信頼には結果で答えればいいのだが、結果のためでなく「人」のために動いてしまうのだ。

信頼を結果で返すのは、簡単なことではない。信頼を与えるほうも距離感が難しい。

アンリの移籍について話を戻そう。

アンリは、ユベントス時代だけでなく、子ども時代にもクラブを転々として、うまく力を発揮できなかった時期があったようだ。
自分を信頼してくれる父親と、父親の存在を疎ましく思うクラブとの折り合いが悪くなってしまったのだ。
僕が何度も読み返している名著「ルーツ フットボーラーたちの原点」にもそのことが詳しく出ている。

「他の子どもたちやクラブ全体のことを顧みず、ひたすらプロ選手への階段を駆け上がることを選択したアンリ親子の存在は移籍先でも浮いた存在となり(中略)地域のクラブを渡り歩くことになってしまう」
(ルーツ フットボーラーたちの原点 より)

アンリは移籍に踏み切るだろうか。
残りのサッカー人生を考えるとき、チャンピオンズリーグ優勝を狙って投資を惜しまないクラブからのオファーは最後のチャンスかもしれない。
一方で、きっとアンリは子ども時代の、うまく行かなかった移籍のことも思い出しているに違いない。

移籍する可能性がゼロとは言わないが、可能性は少なそうだ。たとえ移籍しても成功しないことは確実だろう。
アンリの傲慢さが生きるためには、アンリを父親のように信頼してくれるコーチが不可欠だ。そういったチームにも、父親のようなコーチにも、出会える可能性は低いような気がする。

アーセナルファンには申し訳ないが、僕は勝手な妄想をする。
もし、アンリが移籍してそれが失敗したなら、あるいは移籍しなくてもチャンピオンズリーグを勝ち抜けないとすれば、、、

日本の自動車会社が、ベンゲルとアンリの二人セットで、Jリーグへの移籍を実現してくれないだろうか? 
もちろん、スタジアムはいっぱいになるだろうし、名古屋の子どもたちは大喜びだ。
何よりも、アジアを勝ち抜けば、世界一への距離も意外に近い。
二人にとっても悪くない選択だし、自動車会社にとって、投資に見合う価値が得られるような気がする。

万に一つもない可能性だろうか?
それでも、ティエリ・アンリとベンゲルが、日本で車のコマーシャルに出ている姿を想像するのは、ちょっと楽しい。

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[投稿者: nori : 2007年05月23日 08:30]

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