石川直宏 二度好きになった選手

足も遅かったんですよ。本当に遅くて(中略)でも、サイドをやるうちになんかスピードがつくようになって、スピードでも勝負できるようになって
WEBサッカーマガジン 石川直宏インタビュー 2001年5月24日

フィールドをサッカー選手が駆け抜けていくのは、いつ見ても気持ちのよい風景だ。ディフェンダーを一人二人と振り切って、風に乗って、あるいは風を起こして、「ダーッ」という音が僕の頭の中でも鳴っている。
サイドを上がってクロスを上げる、FC東京の石川直宏はそんな「駆け抜ける選手」の代表格だ。
10月6日のFC東京対横浜マリノス戦で、その石川直宏が後半の途中出場からゴールを決めた。
試合後お立ち台にたった石川直宏に、「途中交代でフィールドに入ったときにどんな思いで入りましたか?」とインタビュアーが聞いた。
「いろんな思いがあって」と石川直宏はそう言って話をはじめた。

いろんな思いがあって、10月6日のこの日に手術したこととか、それで昨日の夜、1対1で途中交代で出て、自分がゴールするシーンをイメージしていたら、寝られなくなりました
試合後のコメント

どのタイミングでスタジアムを出ようかな、ぐらいの気持ちでいた僕は「いろいろな思い」という言葉にちょっと不意をつかれた。
石川の走り姿はかなり好きだったな、と思いながら、味スタから家に帰って、石川直宏という表面的にちょっといいな、と思っていた選手の資料や過去のインタビューを探し始めた。
もともと彼がマリノスユースにいて、はじめはサイドの選手じゃなかった、という話はなんとなくは知っていたが、改めてその辺を読んでみると、少しだけ石川直宏に近づける気がした。

足も遅かったんですよ。本当に遅くて(中略)でも、サイドをやるうちになんかスピードがつくようになって、スピードでも勝負できるようになって
WEBサッカーマガジン 石川直宏インタビュー 2001年5月24日

サッカー選手のポジションのコンバートという話は少なくない。
最近よく耳にするのは、フォワードやトップ下の足元のうまい選手が、ボランチなど下がり目のポジションに変わって力を発揮する、というパターンだろう。中村憲剛が筆頭例だ。
ボール扱いがうまい選手は、子供の頃自然とゴールに近い場所で、活躍する。しかし年代が上がるにつれて、厳しいプレッシャーの中で前を向けずに苦しむことになる。
不慣れな守備の負担が増えるが、それでも下がり目のポジションになると、広い視野を確保して、前を向いてボールをさばけるようになる。そんな図式だろうか。
石川直宏のコンバートは、ちょっと違うようだ。
このインタビューを読むと、その時点で石川直宏がサイドプレイヤーとして適しているとは、周囲の誰も、石川自身さえも思っていない状況だったように読める。
足が遅く、体力がなく、ボールと縦に走ることが苦手。
サイドのスペシャリストとしての素養に欠けていた。そんな選手だったように見える。

真ん中をやっていたときは、相手と一緒に走るのが苦手で、ボール持って、自分が走るときはゴールを狙う瞬間とか、そういう感じだったんで、いまみたいに一緒に並んでボールを出して、自分が走り勝ってセンタリングだとか、想像もできなかったですけど

石川直宏がサイドのポジションに転向した時期は、トップチームへの昇格を決める残り時間の中で、追い詰められた上での決断だったろう。
真ん中ではレギュラーになれない、弱いフィジカルでもなんとかできそう、そういう消極的な理由が、彼をサイドに立たせたようだ。
しかし、石川直宏は変わっていく。
サイドのスペシャリストに必須な、「スピード」を自分のものにしていく。
しかし、そのインタビューを読んでもなお、「石川直宏は足の遅い少年だった」という事実をどうにも消化できない。信じられないと思いませんか?
「変わることで大きくなった選手」として石川直宏を認知しはじめると、僕の中で石川直宏という存在がムクムクと起き上がってくる。
恐らくフィールドに立つ、一瞬一瞬にも、常にそうやって頭をぶん回して、変化の方向とタイミングを見定めているのだろう。途中交代で出て、試合のリズムを変えて、よい方向に持っていく。それこそが石川の真骨頂なのかもしれない。
この先、スピードスターとしての石川直宏は、きっと模索しながら変わっていくことだろう。サイドを疾走してクロスを上げるスピードスターは、その駆け引きで老練になり、サイドから真ん中、そして左へと縦横無尽に動く、変化を予測するスピードに、磨きをかけていくのかもしれない。
「変われる。変わっていくことが素敵だ」
そう石川直宏は僕に教えてくれた。そうだよな、と思う。
このところ石川は代表からも少し遠い位置にいる。どうしてもアテネの不本意な使われ方と、その涙がまだ印象に残っている。それ以来と言っていいのか、調子を落としたり、怪我に苦しんだ時代があった。
でも、なんか大丈夫なような気がしてきた。
興味を持って選手を掘り下げていくと、二度選手を好きになることがある。
気がつくと僕は最近、電車やオフィスの中で、石川直宏の応援歌を歌っている。
FC東京のスタジアムに響くそのスカパラのメロディが、ここしばらくは頭から離れそうにない。

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