サムアラダイス チームのインフラが何よりも大事

チームのインフラを整えることはいつも一番大切なことだ。どのチームに行ってもそのことを痛感するサムアラダイス 2007年5月12日 英国 The Mail 「I quit Bolton because I need to be at a club where I can win trophies」 より

評判のよい小さなレストランを経営していたオーナーが、まったく反対の金持ち相手の高級レストランのプロデュースというのをはじめた。
なぜそうするのか、と聞いたとき、彼はこう答えた。
「小さなレストランを経営していると、それ相当の仕事しか来ない。自分がもう一段上の仕事ができることを見せたかったんだ」
サムアラダイスが10年契約を結んでいたボルトンの監督を辞めて、ニューキャッスルに移ったと聞いたとき、このレストランのプロデューサーの顔が浮かんだ。
アラダイスは、ボルトンを去ることについて「シルバーウェア(優勝カップのこと)が欲しかったからさ」と言った。
恐らく「昇格請負監督」に納まらず、もう一段上の仕事を見せたかったのだろう。
アラダイスは、今でもイングランドの代表監督候補に名前があがる。
ボルトンをプレミアに昇格させて、UEFAカップ出場まで持っていった。
一度ダメになった選手を再生させることでも有名で、こうやって書いて見ると、野球の野村監督に似ている感じもする。
サムアラダイスは、テレビ映りが悪い。ブルドック顔でしょっちゅう何か(ガム?噛みタバコ?)を噛んでいる。怒鳴る時はすごい形相になる。口を大きく開けると、噛んでいる赤いものが見えて、それは血が滴る肉にも見えたりする。
妻もテレビのアラダイスの顔を見ながら「この人いやーねー」と身をもだえる。女子高生が携帯ストラップにしちゃうくらい嫌な感じだ。
アラダイスの試合を見ていると、前半はベンチではなく、観客席に座っている。ニューキャッスルのオーナー(まだアランスミスのシャツを着ている)の横に座って、ベンチへの指示は、小さなマイクにぼそぼそ喋っている(これがまた印象悪い)。
そして後半になると、やおらベンチに下りてきて、立ち上がってフィールドの選手に細かく指示を与える。
オーナーの隣に座っているのは、ご機嫌取りに見えるし、実際にそういう面もあるのだろう。
しかし、一方で、その位置は、フィールドを俯瞰できるというメリットもありそうだ。
恐らくアラダイスは仮説を持って相手を見定め、自分のチームを編成し、その日の試合に臨む。前半は、俯瞰できるポジションから、その仮説が正しかったのかどうかを検証し、修正すべき点を見極める。
後半は、俯瞰したデータをもとに、一気にディテールを詰めていく。
そして、もう一つ、チームのインフラを整えるという効果を考えているに違いない。
自分の姿を常にオーナーに意識させる。オーナーとの関係が安定し、チーム運営のノイズ発生を予防できる。
同時にチームのスタッフにも、自分とオーナーの近さをアピールする。チーム全体が自分の意図を無意識に汲み取ろうとする。
オーナーも監督も新しいチームが、早い段階で一体感を獲得するために、アラダイスは、あの場所に座っているように見える。
再び、レストランのオーナーの話に戻る。
その人は開店時にオープニングパーティーをやらないそうだ。
なぜか、と聞くと、レストランのインフラが整い、完璧なサービスができるとわかるまでは、大事なお客様は呼ばない、ということだ。そしてそれは動かしながら固めていくしかないんだ、と。
オープニングパーティーには大事な客を呼ぶ。その大事な相手に、不完全なサービスを見せるなんてもってのほかだ。

チームのインフラを整えることはいつも一番大切なことだ。どのチームに行ってもそのことを痛感する。私の監督のもとでプロフェッショナルスタッフが、責任を持って仕事を遂行する。その基盤が組織されてはじめて、選手は他のどのチームよりも気持ちよくプレイし、よりよいサッカーができるようになるんだ

野心もギラギラにある。強権でならす暴君のようにも見える。ボルトンと10年契約を結ぶしたたかさもある(ニューキャッスルとは3年契約)。BBCでは、選手の移籍の際に代理人の息子とお金を得ていた、という疑惑報道もなされた(今のところ疑惑は沈静化)。
しかし、一方で彼は、常に最高のものを創り上げるため、全力を尽くす男でもある。
頑固そうな親父顔で、修正、変化、チャレンジを行動で体言している。
ボルトンでは、ロングボール主体のつまらないサッカーをしていた。ニューキャッスルも、そういうつまらないサッカーになる、とサポーターは危惧したが、今はそれを裏切る攻撃的で面白いサッカーを展開している。
常に全体を俯瞰し、そして同時にチームと選手というディテールを徹底的によくしていく。繊細さとバランスと大胆さ。
今回アラダイスが獲得した、ビドゥーカやアランスミスといった選手は、難しいプレミアで経験を積んだ選手たちだ。早期に強いチームを作り上げるために「経験」が何よりも必要だ、と判断してのことだろう。
アラダイスの打つ手はどれも、考え抜かれていて、全体に行き届き、そして繊細だ。
ニューキャッスルの試合の日になる。アラダイスの顔がまたドアップになる。
「いや彼を誉めすぎだ、きっと悪い親父に違いない」とまた思う。
ゲームが終わってしばらく時間がたつ。アラダイスを思い出す。
「いや、やっぱり繊細でいいやつに違いない」
今度は反対のことを思う。

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