アラン・シアラー 体にしみこんだチーム

ニューカッスルは僕の夢だった。地元ゴスフォースで育ち、家族全員ニューカッスルのファン。ゴール裏の応援席に通ったよ。アラン・シアラーDVD 世界最高のストライカーより

ニューカッスルがひどいことになっている。
プレミアリーグの降格ゾーンは下位3チームだが、ニューカッスルは、降格ゾーンまであと4ポイントにせまっている(3月18日現在)。
イングランドのニュースサイトでは、フリーフォール(freefall)と書かれてしまっている。監督をキーガンに変えてからまだ勝利がない。いったいこのチームは、どこまで落ちていくのか、という感じだ。
オーナーが変わったこと、監督が変わったこと、選手が大幅に入れ替わったこと、ディフェンスがぼろぼろで、オーウェンやスミスが点を決めないこと。低迷の原因はいろいろあるが、もちろんアランシアラーがいないことが原因、あるいは彼さえいればと考える人もいるだろう。
ニューカッスルの順位が下がり始めたころから、ニュースサイトやファンのブログではアラン・シアラーの名前が目立つようになってきた。
あるコラムニストは、「シアラーを監督にしない限り、まともにはならないだろう」とまで言い切っていた(Simon Barnes TIMES ONLINE 2008/1/18)。
現実に彼がコーチとして戻ってくる可能性は、今は少し遠のいているようだ。しかし、いつかはシアラーがニューカッスルの監督になる、と信じているファンは多い。
もっとも、シアラーはイングランド全体で人気がある。イングランド代表監督がカペッロに決まる直前には「この際シアラーは(代表監督に)どうか?」という大胆な意見もあった。
アラン・シアラーは、イングランド最高のストライカーだ。ブラックバーンで得点王になり、プレミアリーグで優勝をして、96年にニューカッスルに移籍するわけだが、その時点で、バルセロナをはじめあらゆる強豪チームが彼を欲しがっていた。
本人にイングランドを出る気がなかったため、ニューカッスルとマンチェスターユナイテッドで迷い、タイトルが狙えるマンUに、いったんは移籍が決まりかけた。
彼のインタビューによると、そのときは本当にサインの寸前までいき、住む家まで決まっていた、という。
しかし移籍先のマンチェスターで家を見つけて、ああ、いい家だね、ここに住めたらいいね、なんて奥さんと話をしていたときに、ふと自分の胸の中に大きな空白があることに気がついた。本当にこれでいいのか、とシアラーは急にその疑問をほっておけなくなる。
そして、突然「やっぱり俺はニューカッスルに帰る」と奥さんにつげる。
そしてそれはニューカッスルにとって最高の選択になった。監督だったブライアン・ロブソンは、「シアラーを呼び戻したのは、クラブ史上最良の選択だった。移籍金は高かった(約30億円当時最高額)が、その3倍ぐらいの利益を得たはずだ」と言っている。
あらゆるビッグクラブの誘いを蹴って故郷のクラブへ。
この話は表面的には知っていた。もちろんいい話だ、と思ってはいたが、「そこまで故郷のクラブにこだわるんだ」という率直な驚きもあった。
しかし今は少し違う。
日本のサッカーを好きになって、プレミアを見て、そしてまた日本のサッカーに戻ってくるとき、イングランドの人々の体にしみこんだクラブチームというのが、なんとなくはわかってきた感じがする。
僕の場合、特にそれはクラブの降格のシーンで感じることが多かったようだ。
「降格」はサッカーで体験した厳しくも新しい形のドラマで、年中行事の一つではあるが、プレミアリーグという劇場で、それはまさに悲劇だ。
テレビの狙いとはいえ、そこに映るのはチームのレプリカを着た少年だったり、マフラーを肩にかけて抱き合う老夫婦だったり、頭を抱えて大粒の涙を流すスキンヘッドで巨漢のこわいおにいちゃんだったり、となんとも言えない映像なのだ。
人生訓ふうに言えば、「歓喜は皆、同じ顔だが、降格の悲劇で見せる顔は皆違う」というところか。
そのとき、彼らの中に、いかにクラブが浸透しているのか、というのを実感する。
今やJリーグでも、長谷川健太や柱谷、ピクシーといった面々が、かつてのクラブの監督として立っている。やがて福田がレッズの監督になる日も来るだろう(次の次?)。
それはそれで、ぐるっとひと回りした歴史を感じる場面ではある。
でも、シアラーとニューカッスルを結びつける絆はぜんぜん格が違う。
人々にしみこんでいる「クラブチーム」の、そのしみこみ度合いが違う。
ニューカッスルが、苦しんでいる時に言うのもなんだが、降格と絡めてこれからの試合は結構、注目ではないかと思っている。
今期は、現時点で、降格に絡みそうなクラブが多い。9つぐらいのクラブが巻き込まれそうな恐怖を感じている。
そして、ニューカッスルは、これから降格を争う下位チームとの試合が続く。その中には宿敵、サンダーランドもいる。
試合内容よりは、降格の争いの中で一喜一憂するスタジアムを、そしてそのスタジアムを包む街を感じてみたい。
もし興味があれば、ネットで「ニューカッスル」と検索して、この街のことを調べてから、ゲームを見ることをお勧めする。
ニューカッスルはイングランドの古い伝統的なクラブの一つだ。
ちょっと調べてみると、東郷平八郎という日露戦争の海軍大将が、スタジアムでサッカー観戦をしたというこぼれ話まで出てきた。明治、日露戦争、東郷平八郎、そんな時代から、ニューカッスルの人々はサッカーとチームを愛してきたのだ。
その街は、まさに歴史と日常がうまく溶け合った街のようだ。
人口30万という街にあるセント・ジェームス・パークは、その人口の6分の1を収容する5万人のキャパなのに、いつもいっぱいだ(ちなみに新潟市が約80万人)。日本人旅行者や留学生の共通の印象は、街を歩けば平気で人が挨拶して話けてくるような土地柄だという。
そういった街の人々が、神様に祈る感じの試合が続く。
そんなふうに考えていくと、少しだけ故郷のチームを選んだ、シアラーの気持に近づくことができるような気がする。

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コメント

  1. マーティンス・ファン より:

    こんにちは。はじめまして。
    とても楽しくぜーんぶ読ませていただきました。
    英国に住んでまだ5年程ですが、何より驚いたのは、自分の贔屓のチームの話をする時は「マイ チーム」と言う事。何だか感動しました。
    ロンドン近郊に住んでいる関係で、周囲はアーソナルやMAN-U、トテナムのサポーターばかりなのですが、めげずにニューカッスルを応援しています。
    St.ジェームスに行った時は、感無量でウルウル。
    マッチデーには、ユニフォームを着て仕事してます。
    バドゥーカも復帰したし、これからが楽しみです♪
    (スミスの記事、泣けてくる位感動しました。)
    日本では、まだまだ無名チームみたいなんで、もっと紹介して下さい(笑

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