ドログバ 未完成だからいいのさ

貴重な時間を失ったけど、修正の利かないことなんて、ひとつもないよ。サッカーマガジン 2005年5月3日 1023号
ドロクバのインタビュー DIDIER DROGBA

チェルシーのフォワードにドログバという選手がいる。アフリカ出身で身体能力が高い。あの名将モウリーニョのお気に入りだから、単に大きいだけの選手ではない。守備もきっちりこなす。
フランス代表も選択できたが、生まれ故郷のコートジボワール代表を選び、母国をワールドカップの初出場に導いている。ドイツ大会では、もっとも注目されるフォワードの一人だ。
小さな日本人の僕は、身体能力にものを言わせたサッカー選手は好きじゃない。「小さくてもがんばる」プレイヤーが、やはり好みだ。
でも、なぜかドログバだけは嫌いになれず、彼の動きと醸し出す雰囲気が好きでたまらない。彼がフィールドに立っていると、ワクワクとした感じが沸きあがってくる。
「簡単なシュートをはずし、とんでもないゴールを決める」
ドログバは、フリーのシュートをいくつもはずした後、今度は人間技とは思えない鋭いヘディングシュートをズドンと決めたりする。
ある日、彼のそんなバランスの悪さ=不完全さ、が僕をワクワクさせる理由なのかもしれない、とそんなことを考えた。
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話は変わるが成長段階の子供の場合、子供時代に完成されたサッカーをする子が、そのまま伸びるとは限らない。技術レベルは今ひとつだが、特徴のある子が伸びたり、結局はハートのある子が伸びるということは、結構多い。
日本代表で言えば、ゴン中山とかディフェンスの中澤選手なんかは、その代表だろう。
大人のサッカー選手になっても同じだ。ゴンも中澤も、足りないところがたくさんあるままに、まだまだ伸び続けている気がする。
「足りない」ことがすごく大事、なのではないか、と思える時がある。
バランスが悪いが、突出した部分がある人間の方が、将来有望と感じさせるものがある。
「駄目な子ほどかわいい」という諺、もしかすると、人間の足りない部分にこそ可能性を強く感じる、という世の真理をついているのかもね。
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ドログバは遅咲きの選手だ。
5歳で故郷の両親を離れて暮らし、サッカー漬けの日々をずっとすごしてきた。当時プロサッカー選手だったドログバのおじさんが、彼を連れてフランスに渡り、そのままおじさんがクラブを変えるたびに、ドログバも生活の拠点を変えていった。
「ずっと転校生」みたいな生活で、故郷の両親とフランスのおじさんの間をいったりきたりする生活が続いた。
プロ契約は21歳の時で、フランスの2部リーグで長くすごし、怪我が続いたり、慣れないウィングのポジションで苦しむという経験をしている。
才能の片鱗は見せつつも、ポテンシャルはポテンシャルのままで、消えて終わる可能性もあった。
でも、ドログバのポテンシャルは、ついに見出される。
フランスのマルセイユで得点を重ねると、モウリーニョの目に留まり、高額な移籍金でチェルシーに移籍して、一気にメディアの注目を浴びる。その時ドログバは、もう26歳になっていた。
「貴重な時間を失ったけど、修正の利かないことなんて、ひとつもないよ」
ドログバは笑って言う。常に未完成の自分を修正して、成長してきた経験が、この気軽な言葉に集約されている。
ドログバは、ずっと何かが足りない選手だった。
今や世界的に注目される選手になり、チェルシーもコートジボワール代表でも、彼のチームは、ドログバが鍵を握っている。
もう彼は完成された選手なのだろうか?
いや、そんなことはない。
ドログバは、相変わらず、すごいなりに、やっぱり何かが足りないままだ。
だから、僕は未完成のドログバがどこまで伸びるのか、ワクワクする。まだ底知れないポテンシャルを感じさせ、この先、30歳をすぎても、もしかしたら40歳になっても、ずっと伸び続けるような気がしてならない。
ドログバを見ながら、サッカーとはぜんぜん違うが、僕だって40歳を過ぎたけど、まだ成長が止まったわけではない、とそんなふうに考える勇気をもらっている。経験は、自分の足りない部分をポテンシャルに変えて、もっと伸びることができると・・・

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