オリンピック代表 クラマーと釜本の出会いからもう一度

「ふたり(釜本と杉山)のコンビネーションは、何度もトレーニングを積むことで完成されていったんだ」クラマーの言葉 「大和魂のモダンサッカー」加部究著

僕は出張先でオリンピックのサッカーの試合を見ていた。宿泊先のロビーで、僕の横に座っていた知らないおじいさんが、日本代表のふがいない戦いに何度もため息をついていた。
「釜本はおらへんのだなぁ」
僕はその言葉に思わず苦笑いをした。
「釜本でも無理じゃないすかね?」
僕はそう答えた。
「そんなに相手は強いんか?」
僕は首を振ったが、そこで会話は終わった。
「たとえ釜本が反町ジャパンにいても、結果は同じだったのではないか?」
僕が思ったのはそういうことだ。
今回オリンピック代表を見て、選手たちの素材は申し分ないように見えた。しかし、守備の連係はある程度できても、攻撃になると「素材」が生きる場面が全くない。
ゴールを奪う美しい連携といった料理人の「腕」を感じさせる場面は見られなかった。
まるで僕が日曜に作る料理のようだ。自慢じゃないが、僕は料理が下手だ。
道具と素材選びには時間と金をかけて、蘊蓄(うんちく)を山のように集めるのに、料理をすればするほどダメになっていく。
段取りが頭に入っていないため、何か一つやるたびに、レシピを読みなおして、無駄な時間を使ってしまう。料理の途中でコショウの瓶が空っぽなことに気がついたり、パスタが茹であがってから、食器を探し始めて、せっかくのパスタをのばしてしまう。
さすがに僕は料理の後片づけぐらいはやるが、今回の日本代表は台所を汚したまま、フェードアウトしそうだ。
少し前、加部究さんのクラマーに関する本「大和魂のモダンサッカー」を読んだ。
よい本なので、読んでいない方にはぜひお勧めだ。その本を読んで僕が一つわかったのは、釜本誕生の背景に、料理人たちの腕とバックアップがあった、ということだ。
もちろん、釜本の素材は圧倒的で、それがはじまりだった。
しかし、クラマーがそれを見抜き、代表の軸に据え、岡野俊一郎をはじめコーチ陣が、釜本をどうデビューさせ、どう成長させるか徹底的に議論を重ねている姿が描かれれていた。
左の杉山と釜本の連携がオートメーションを生みだすよう、徹底した練習が繰り返された。杉山には連日200本に及ぶクロスが課され、釜本がヘディングとボールコントロールを磨くため、岡野は鬼になって練習につきあった。

「とにかく大切なプレーは、オートメーション化(体に染み込む)するほどに繰り返す必要がある。だから私は、全員がシャワーを浴びにひきあげた後も、ふたりを残してトレーニングを課した。ふたりのコンビネーションは、何度もトレーニングを積むことで完成されていったんだ」

料理人のクラマーは、釜本を世界にデビューさせるレシピを練っていたが、釜本がウィルス性の肝炎になったため、ワールドカップや世界選抜戦への出場は実らなかった。しかし「釜本誕生」はすぐれた料理人と戦略が背景にあったからだ、と今は思える。
それにしても、今回のオリンピックのサッカー敗退は悲惨だ。子供たちが「サッカー選手っていまいちかも」と思ってしまい、次世代のサッカー普及に影響してしまう。
社会的な影響が大きいのに、次に向けて日本ができる対策は極めて少ない。
そもそも厳しい「日程」という「悪循環の元」をそのままにして、監督や選手に檄だけを飛ばす、というのは理不尽に見える。準備期間は確かにあったが、その期間を有効に使えないほど、選手のセレクションには障害が多く、彼らのコンディションは安定しなかった。
会社ではよくある話だ。
「今回のプロジェクトは社運をかけてサポートするのでぜひ頑張ってくれ」
そう言われて身を引きしめても、その言葉を裏付ける基盤がない。気がつくと担当者が一人で孤立し、そのことを訴えると「とにかく結果を残せ」と檄だけが頭からふりかかる。
反町監督の責任を免除するつもりは毛頭ないが、「オリンピック」という料理を作るために立った台所は、新潟よりも複雑で混乱していたのではないか?
すごくおおざっぱに見れば、次を目指すための選択肢は以下の3つ。
A)「日程問題」を改善し、オリンピックチーム強化の優先順位を上げる
B)ヒディングなみの監督を連れてくる
C)オリンピックチームの達成目標と優先順位を変える
水泳の北島の金メダルと比較される理不尽なステージで本気でメダルを狙うなら、日程改善と優秀な監督の両方が必要だ。
しかし、一方で現実は厳しい。Jのチーム数を増やし、アジア市場への取り組みが進めば、オリンピック強化の優先順位と価値は、実質的に値下げになる。今後もサッカー界と社会の期待とのギャップは広がるばかりだ。
それにU-23のためだけに、世界クラスの人材が監督になってくれる可能性も低い。
それならオリンピックチームの達成目標と優先順位を変えるしかないのか?
たとえば「第二の釜本」つまり「次世代の国産フォワード」を作ることを、メダルよりも高い優先順位に設定する。
さすがに釜本の時代のように一人のフォワードに頼るのは無理があるから、日本の将来を担うフォワードの人材を3-4人程度に絞り、フォワード同士やパスの配給元のミッドフィルダーとの連携を徹底的に磨く。大枠でフォワードの徹底強化を優先順位のトップにもっていき、釜本と杉山のセットを複数作っていくのだ。
幸いミッドフィルダーの人材は、オーバーエイジも含めれば豊富で多彩だし、混乱した日程で拙い料理人が料理しても、守備と中盤までは、なんとかなっている。
であればオリンピックチームは、守備や中盤から作るのではなく、フォワードの軸から逆算して強化していく。点をとるための連携を深めるために、エネルギーを注ぐのだ。
根拠なくメダルを口にして、監督と選手に責任を押し付けていては、次のロンドンのオリンピック・プロジェクトも確実に失敗する。
メダル以前に、ハイライトに流される価値のあるゴールの喜びを、ひとつでも子供たちに伝えてほしい。
そのために、もう一度クラマーと釜本の出会いの地点に戻るのは、どうだろう?

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コメント

  1. hoge より:

    いつも楽しく読んでいますが、、↓これは少し北島選手に失礼なのでは?
    >水泳の北島の金メダルと比較される理不尽なステージで本気でメダルを狙うなら、

  2. いえいえ、北島の金メダルは、素直に感動しています。
    「理不尽」は、北島やサッカーのメダルの価値を述べたものではなく、水泳も、マラソンも、サッカーも、乗馬も、トライアスロンも、本来はまったく違うスポーツなのに、「メダル」という単純な基準で一律に比べてしまいがちなので、それはいくらなんでも理不尽じゃないか、と思っている次第です。

  3. hoge より:

    そういうことですね。
    納得しました。

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