マイケル・オーウェンの遅い挫折

幸いな事に僕は精神的にも強いから、ここから選手として人間として成長できると思っているよ
BBC Sportのインタビュー 2005年3月31日

イングランド代表がクロアチアと戦ったワールドカップ予選で、ウォルコットがハットトリックを決めた。
翌日のイングランドのニュースには、ウォルコットを称賛するために、マイケル・オーウェンが引き合いに出された。
7年前の日韓ワールドカップの予選のとき、因縁のドイツからマイケル・オーウェンがハットトリックを決めた。同じく因縁のあるクロアチアから決めたハットトリックは、7年ぶりの快挙ということらしい。
もちろん、フランスワールドカップのアルゼンチン戦で決めた「ワンダーボーイ」のゴールも、引き合いに出された。もうあれから10年近くがたつのだが、オーウェンと言えばやっぱりあのゴールだ。
そのマイケル・オーウェンは、今回のワールドカップ予選で、カペッロの代表からはずれている。「オーウェンを呼ばないのは驚きだ」と、試合前にはそんな見出しもあったが、ジョ―コールやウォルコットの活躍で、かえってオーウェンは過去の人という扱いに思える。
「才能ある若手にこそ挫折を経験させなければならない。挫折はその選手を成長させる最大の良薬だからである」
これはクライフの有名な言葉だ。
オーウェンは、まったく挫折を知らずに頂点まで登っていった選手といえそうだ。
7歳で、3つ年上の10歳のチームに入って、秘密兵器と呼ばれた、とそんなエピソードからはじまって、13歳でリバプールに注目されて青田買いの契約を結び、17歳でリバプールとプロ契約を結んでいる。
デビューしてすぐに2年連続でプレミアの得点王になって、最年少でイングランド代表になり、アルゼンチン戦で「ワンダーボーイ」のゴールを決めたのは18歳の時だ。
そして2001年には22歳でバロンドールを受賞している。その間、1シーズンだけ怪我で苦しんだが、コンスタントにシーズン20得点ぐらいを決めていた。
しかし、レアル移籍のころから、オーウェンに「痛い」ニュースが目立ち始める。
背番号こそ11番だったが、出場機会は限られ、ベンチにいることが多くなった。
チャンピオンズリーグのタイトルがほしくてレアルに移籍したのに、実際に優勝したのは移籍前のリバプール、という「痛い」結果になった。
年に1億円近く負けるギャンブル好きだとか、クラブよりもあからさまに代表を優先する態度が批判されたりしている。2004年発売の自伝には、キーガン監督の代表チームを、最悪の経験、とはっきり書いてしまっている。まさか復帰したニューカッスルの監督が、その最悪のキーガンになるとは思ってもいなかっただろう(一応仲直りしたという話になっている)。
2005年イングランドのニューカッスルに再び戻ってからは、怪我が続いている。
代表では2006年のドイツワールドカップで、出場1分で前十字靱帯損傷の怪我で退場してしまった。
今でも移籍を模索しているとか、サラリーを釣り上げる交渉をしているとか、そんな話も消えずにくすぶっている。
ニューカッスルのサポーターにとっても、オーウェンは複雑な気分にさせる選手のようだ。ネットのコメントを見ると、「最近復帰したのはイングランド代表を狙っているから、それだけだよ」とか「怪我ばかりでクラブの金を無駄使いしている」とか、そんなことを言われている。
オーウェン自身、最近のサッカーに適合しない点があるように見える。
オーウェンのゴール集を見返すと、センターバックが追いかけるのをあきらめるぐらい速くゴール裏を駆け抜けているものが多い。
しかし、最近のサッカーは、守備ブロックを少し引き気味にして、カウンターを予防している。オーウェンがかつて走り抜けた、ディフェンス裏の広大なスペースは、すっかり過去のものになっている。
前線のプレイヤーも、ルーニーやウォルコット、ジョ―コールのように、ミッドフィルダーとのハイブリッド型が主流になりつつある。
オーウェンは、中央のエリアでゴールを決める、典型的なセンターフォワードだ。
なんだか書き進んでいるうちに、オーウェンに未来がなくなってきた気分だが、彼のゴールを数えているうちにその考えも変わってくる。
イングランド代表 出場試合数 89試合 40ゴール 試合あたりの決定率 45%
レアルマドリッド 出場試合数 41試合 16ゴール 試合あたりの決定率 39%
ニューカッスル 出場試合数 49試合  22ゴール 試合あたりの決定率 45% (9/13現在)
リバプール時代の決定率は53%(297試合で158ゴール)とそれほど遜色ない数字だ。
印象がよくないレアルマドリッド時代も、出場分数あたりのゴール決定率は、スペインリーグでオーウェンが一番高かった。
最近のデータでも、ユーロ2008の予選では、5試合で4得点を決めている。
ニューカッスルの今シーズンの復帰戦でも、しっかりヘディングでゴールを決め、ぼろ負けしたアーセナル戦でもあわやというシュートをしている。
ウォルコットと比較される形で自分の名前が見出しになるのを見ながら、オーウェンは自分のプレイスタイルについて考えているかもしれない。周囲のサッカーも変わってきたし、確かに自分のスピードも衰えた。何も考えずに決められたゴールが、今はそうもいかなくなった。
代表選考から漏れ、ニューカッスルも監督のキーガンが突然辞任し、ニューカッスルのオーナーの生みだした混乱はひどくなる一方だ。
オーウェンは、今になって遅い挫折を経験しているのかもしれない。それもなんかじわじわと悪くなっていくような感じでたちがわるい。
それでも「ゴールを決める」という才能は、特別なものに僕には思える。
勝手な意見だが、サイドや引いて守るスタイルに変えるより、中央でのゴール決定率、そこにこだわることが、オーウェンが復活する最善の方法に思える。
オーウェンがマイナスの山の中で、順調にゴールを決められるのか?
年齢を重ねてからの遅い挫折を、プラスに変える強さがあるのか?
今シーズン、ちょっと注目している。


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