岡田監督 あなたがリアリストに戻るのなら

私にとってそもそも「攻撃的か、それとも守備的か」というくくり方は存在しない。あるのは「リアリストか、そうではないか」という分け方だけに限られる。
ファビオカッペロ 欧州サッカー批評2009

東アジア選手権は、まったくふがいないひどい結果だった。本来なら、怒りをぶちまけて、サッカー協会の皆さんがぐうの音も出ない文句を言いたいと思うところだ。
しかし、なぜか僕の怒りはあまり本質的なところにはないようだ。
人間の怒るポイントは、いつも見た目はささいなところだ。
妻が怒り狂うきっかけも、テーブルの上に新聞を広げっぱなしにしているところとか、「朝起こしたら1度で起きなさいよ」みたいなところで爆発する。(ここの下りを妻が読んだら怒り狂うな)。
その日、2月14日の日韓戦は、審判の奇妙な演出で、国立の舞台に役者が10人づつしかいない、という状況になった。役者が少なくなったので、フィールドには、自然にスペースが生まれていた。日本代表も、ぶれの少ないパス展開で、縦に進めるようになっていた(ゴールの手前まで)。
これだけスペースがあるなら、ここは佐藤寿人を出すのが一番いい。僕ら家族は「こりゃ寿人だな」と言っていた。
そのことは岡田監督もわかっていたのだろう。結局フォワードの交代は佐藤寿人だった。失礼な言い方だが、料理の仕方は僕らと一致していた。
しかし、どうにも佐藤寿人の投入が遅いのだ。いや本当に遅かった。怒っていて何分の交代かは覚えていないが、結局2点のビハインドになって、佐藤寿人に与えられた残り時間はわずかになり、ついでにスペースも消えてしまっていた。
フライパンの上では、ニンニクがいい色になり、もう焦げ始めているのに、フライパンを見つめたままで、次の食材を入れないのは、いったいどういうわけだ?
お前は、何を料理しようとしているんだ? と僕らは声を荒げてテレビの画面に罵り続けた。
もっと本質的な批判もあるはずなのに、佐藤寿人の投入が遅かった点だけは、今になっても怒りがおさまらない(友人は交代の玉田のゆっくり歩きに怒り心頭だ)。
もちろん、岡田監督の言い分はあるだろう。残りの交代枠と審判のきまぐれさを考えると、ギリギリの時間まで交代のカードは切りたくなかった。あるいは今のメンバーで点を取れるかギリギリまで見たかった。
でもね、結局、出来上がった料理は、これまでで一番おいしくなかったでしょ?
おそらく、無残な敗因は、岡田監督がリアリストの自分を無理やり隠して、理想家の仮面をかぶってしまったことだ。
本来はリアリストなのに、理想家になろうとする。結果的に血の通わない言葉を発し、そのちぐはぐさが、選手の歯車を狂わせ、僕らと代表の距離を遠くさせてしまっている。
選手に自由な発想を期待する、と言いながら、90分間メリハリなく動き続けなければダメだ、と言う。
もっとシュートの意識を持て、と言いながら、二人のフォワードをサイドに開かせて、フォワードの仕事への集中力をそいでいる。
平山というターゲットができて活性化しても、「遠藤が上がったからだ」と、リアリストの象徴の平山を否定する。(もちろん、「遠藤」の件は間違いではない。両方セットなのに、リアリストの理由だけ打ち消すから妙な感じで響くのだ)
その他の起用や交代もちぐはぐで、理想家とリアリストが、混乱したままの状態だ。
本当は岡田監督の真骨頂は、アンチフットボールなぐらいリアリストな面だ。守備を固め、センターバックが上がるのは死ぬほど嫌いだ。可能性の低い理想を求めるより、可能性の高い冷徹で現実的、相手が嫌がるような対策を取る方があっている。
結果的に出来上がったのは、ときどきアーセナルだけど、あとはずっとバタバタと動き続けるチームだ。
監督の抱える矛盾は、絶対にフィールドに反射する。選手たちは、力を発揮できず、ちぐはぐな雰囲気が続く。勝負にこだわったシンプルな韓国に押されていき、最後は土石流のようにチームが崩れていく。
オシムが倒れた時、あっさりと代表監督を引き受けたのは、リアリストのタケシ君の方だった。この空白は、自分以外の他の誰も埋められない、と岡田さんの本能が決めたのだ。
それなのに、「引き受けるからには理想のサッカーを追求する」と、オシムの「サッカーの日本化」からさらに原理主義的に先鋭化したようなサッカーになってしまった。
ベストフォーという目標も、リアリストのタケシ君のままなら、「いや、やっぱり今回はちょっと無理だね。悪い」と早々に撤回していたはずだ。
しかし、今はうつろな目で「ベストフォーだけどそれが何か」という態度にまでなっている。
本来ならこの危機は、リアリストの岡田に戻る最後のチャンスなのだ。
「理想を追求しようと思ったけど、やっぱりやめた。とにかくまず最初の1勝をなりふり構わず取りに行く」と、そう本音に戻ってくれるなら、それなら、僕はあなたをその1勝分だけ信じることができる。
でも、そうでないなら、佐藤寿人の遅い投入に、煮えくりかえった僕の怒りは、もう4年間続くだろう。


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