今野が不動のセンターバックに見えてきた

「前半、攻めながらも、(ボールを)取られたときのリスクマネジメントというか、バランスが悪いなと感じていて、サイドバックのポジションもちょっとあいまいだった」
アジアカップ カタール戦後の今野のコメント 2011年1月22日

最初のきっかけは、埼玉スタジアムで見たアルゼンチン戦での栗原のプレイだった。
あれ?と思ったのだ。
正直、それまでの代表での栗原のプレイは、集中を切らす場面が散見された。
W杯直前の岡田監督が、栗原をテストし、不合格となったが、その時の栗原のパフォーマンスでは、岡田監督の判断も仕方のないものに見えた。
ポテンシャルは一級品だが、代表でその力をうまく活かすことができなかった。
ザッケローニ監督が就任して、最初のアルゼンチン戦、日本のセンターバックは、その栗原と、背の高くない今野(公式178㎝)の布陣だった。中澤と闘莉王が出場できない状況で、苦肉の選択に見えた。
しかし、栗原のパフォーマンスは、まったく集中力を切らさずに、アルゼンチンを零点に抑え込む見事なものだった。
アルゼンチンに勝利した歓喜に酔いながら、頭の片隅で「なんで栗原があんなによかったんだ?」と僕は疑問に思っていた。続く韓国戦でも、栗原は隙のないプレイぶりを見せ、さらに僕の疑問は深くなった。岡田監督の栗原と、ザッケローニ監督の栗原は、別人のように違って見えたのだ。いったい何が違うんだ?
一つ目の理由は、精神的なものと考えた。
岡田監督に呼ばれたタイミングは、チーム状態も最悪な上に、南アフリカ召集の最後のチャンスというプレッシャー、一方で、呼ばれてもバックアップ確定というなんとも複雑なものだった。
そんな状況で、突然呼ばれても、本来のパフォーマンスが出来るかよ、ということだろう。
二つ目の理由は、ザッケローニ采配だろう、と考えた。
ザッケローニ監督の栗原への指示は、「(他のことは気にせず)自分の前の相手を抑えることに集中しろ」というものだったという。
もともと、栗原はストッパーとして、対人に絶対的な強みを持つディフェンダーだ。それに比べて、ライン取りやカバーリング、サイドとのバランス取りなどは、やや不得手だ。
僕らの普段の仕事だって、「やらなくてよいこと」が決まらないうちは、あらゆることが気になって集中力は落ちる。まして、不得意な荷物を下ろし、得意なタスクに集中しなさい、と指揮官に言われれば、ポテンシャルが輝きを放つ。
その二つの理由で、なんとなく納得していたのだが、アジアカップの日本代表を見ていて、三つ目の理由に気がついた。
アジアカップ、センターバックでプレイする吉田を見ていて、吉田っていいディフェンダーじゃん、と思ったのだ。そう言えば栗原を見たときと、似た印象だなー、と考えていて、「ああ、組んだ相手が今野だったからだ」と気がついたのだ。
コンディションもいいのだろう。特にアジアカップでの今野は、切れ切れだ。
ファウルを冒さずに相手をつぶすパフォーマンスは、相変わらず一級品だ。さらに、敵のパスコースやシュートコースを消して、危険なスペースを埋める、事前に危険の芽を摘むプレイが、かなり効いている。そして、いざという時の今野の高いカバーリング能力は、栗原にしろ、吉田にしろ、彼らの負担をかなり軽くしているはずだ。
「困ったときは今ちゃん」というわけで、岡田監督の元で今野が呼ばれる理由は「便利だから」という感じに見えた。常に代表に呼ばれているのに、ピッチに立つのは時々。
ザッケローニ監督のもとでも、同じ感覚で見ていた。今野がセンターバックについた第一の理由は、中澤も闘莉王も不在だからだろうと、僕は漠然と思いこんでいた。
しかし、どうも違うのではないか?
ザッケローニの掲げる日本代表のキーワードは「勇気とバランス」だ。カタール戦後のコメントが特に印象的だった。

「わたしは日本代表監督になった時から、このチームには勇気とバランスをもって戦ってくれと(選手に)伝えてきたし、そのコンセプトをもってやっている。今後も相手がどこであれ、相手の力に左右されることなく、勇気をもって日本のサッカーをやっていくのが、このチームの目標である。」

南アフリカで不動のセンターバックだった、中澤と闘莉王は、果たしてザッケローニの目にかなうほど、バランスを保つことに長けているだろうか? 正直、ちょっと疑問だ。じゃあ、伊野波は? 槙野は? 吉田は? 岩政は?
おそらく日本代表クラスのディフェンダーで、もっとも「バランス」に気を配るのは、今野だろう。センターバック同志のバランスはもちろん、サイドとの連携、中盤と敵を挟み込む時の出足の早さ、そしていざとなれば敵をつぶしに行くタイミングと体の入れ方。守備の国から来たザッケローニの掲げる「勇気とバランス」にとって、実は今野こそが不可欠の存在なのではないだろうか?

「前半、攻めながらも、(ボールを)取られたときのリスクマネジメントというか、バランスが悪いなと感じていて、サイドバックのポジションもちょっとあいまいだった」

カタール戦後の小さなコメントだが、今野自身が最終ラインから、常にチームバランスを、気にしていたことを伺わせる。
今野をこよなく愛する僕としては、今野がセンターバックに立つと、得点に絡むシーンが減るので、ちょっとさみしい。
それでも、今野は憲剛並みの、長く速いグラウンダーのパスを何度も通している。ビルドアップの点でも、日本のスピードアップに密かに貢献している。
中澤と闘莉王が戻ってきても、ザッケローニ監督にとって、今野は最初の選択肢になるのではないか? 今野と闘莉王、あるいは今野と吉田という組み合わせを選ぶのではないだろうか?
スペインのプジョル、イタリアのカンナバーロ、サッカー大国にも背の高くない不動のディフェンダーはいる。今野は、プジョルやカンナバーロとは違うタイプだが、サイドバックとボランチの感覚も持つ、別の意味で希有なセンターバックだ。
アジアカップの今野泰幸のパフォーマンスを見ていると、日本代表の不動のセンターバック、いや、アジア屈指のセンターバックになっていても、ちっとも不思議ではない、と今は思える。


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コメント

  1. ジョゼ より:

    良い記事ですね。DFは体格だけじゃない!という事を
    今野は体現してると思います。
    06w杯MVPのカンナバーロも似たような体格だし、頑張って欲しいです。
    ところで・・闘莉王の名前、間違ってますよ。。。
    Livedoorにも載っているわけで、誤字は気をつけられた方がいいと思います。

  2. ありがとうございます。
    闘莉王の件、修正ました。
    ライブドアの方は、修正依頼をだしましたが、届くかどうか、、、
    誤字脱字気をつけますです。

  3. ぴこ より:

    今大会ほんと今ちゃんがんばってますよね
    そしてhappy birthday!

  4. トーマス より:

    はじめまして
    今野好きの人にはうれしい大会になってますよね。
    韓国とのPK戦で今野が試合を決めたときはゾクッとしました。
    決めた後に川島の方に駆けだして、みんな来てるかな?という感じで後ろを振り返る様子もおかしかったです。

  5. いやー、最初に今野がPK取られたときはあせりましたけどね。でも、最後サッカーの神様は、きっちり今野をフィーチャーしましたね。
    よかった。よかった。

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