ラウールよりもゴンザレス

「世界一の選手になりたい」って何度も繰り返して自分の気持ちを高めるんです
ラウールのインタビューの言葉 ナンバー418 1997年5月22日号

「世界一の選手になりたい」・・・なんともベタな願いだ。
ラウールは世界一になりたいと願って、本当に世界一になってしまうような男で、顔もハンサムで、優等生的なヤツだから、同じ男としては、クラスにいてほしくないタイプに見える。
しかし、彼が世界レベルのフォワードになれたのは、才能に恵まれたおぼっちゃまだから、という理由ではない。
ラウール・ゴンザレスは、少年時代、アトレティコ・マドリードというマドリードにある別のチームに所属していた。彼のお父さんのペドロが、熱狂的なアトレティコ・ファンだったため、それは自然な流れだったが、ある日、アトレティコのクラブ側の方針でユースチームを持たないという決断が下されてしまう。それがきっかけとなり、ラウールはライバルチームのレアルマドリードに移籍することになる。
ラウールは痩せっぽちの少年で、身体能力に恵まれていなかった。世界的に有名な選手になった今でも、決して突出した才能の部品が備わっているようには見えない。
足の速さ、背の高さ、キックの強さ、ボールタッチ、どれもレベルが低いわけでは無いが、決して世界のトップレベルかというとそうではない。彼の特徴は、点を取る嗅覚と執念、最後まであきらめない精神的な強さにある。
若き痩せっぽちラウールの才能を見抜き、3軍からトップチームにデビューさせた当時のアントニオ・キローガ監督は「何よりも勝者としての特徴」を持っていたと証言している。
「ラウール」という名前の響きは、端整な顔立ちと線の細さから、ハーゲンダッツのコマーシャルのように、ゴージャスで滑らかな印象を想起させるが、実際の彼はそうではないようだ。
ピッチでの彼は、気が強くて、泥臭くて、勝利への執念をむき出しにする人間だ。彼の本質は、滑らかな「ラウール」より、ごつごつとした岩のような苗字の「ゴンザレス」という響きに合っている。
「ゴンザレスって、ラウールっぽくない姓よね」と僕の妻は、名前を見るたびにそう言って笑うが、彼は結構「ゴンザレス」なのだ、と僕は答える。
昨年の11月、レアル対バルセロナというクラシコ、伝統の一戦があった。クラシコは、巨人阪神戦を百倍にした壮絶なライバル争いだが、11月のゲームでレアルはバルセロナに完敗している。レアルのホームスタジアムにも関わらず、エトーとロナウジーニョにけちょんけちょんにやられてしまった。呆れたレアルの観客は、よりによって宿敵バルセロナのロナウジーニョに、スタンディングオベーションまでしてしまった。
レアルのチームとしての迫力がまったくなかったわけだが、ラウールが怪我でピッチを去ったのも大きな理由の一つだった。ラウールはここ数年、真ん中のポジションまで下がって泥臭く守備に走り回っていた。恐らく彼の試合中の運動量と守備への貢献度は、チーム最大だっただろう。レアルの精神的支柱である彼を失えば、白い銀河系は杏仁豆腐のようになってしまう。
そのクラシコが今度は、4月2日にバルセロナのホームで行われる。
現在の順位とゲーム差、チャンピオンズリーグの結果、ホームスタジアムの利点など、どの情報を見てもバルサ有利の印象が強い。
それでも、今回、バルサは前ほど簡単な試合はできない、と予想している。なぜなら、前回のクラシコで怪我をしたラウールが復帰して、執念を燃やしているからだ。
僕はレアルのファンではないが、「今度のゲームで、プジョル君はちょっと気をつけたほうがいいよ」と忠告したくなる。
プジョルは、バルセロナのユース育ちで身も心もバルサのディフェンスだ。見るからに熱血漢で、カタルーニャ魂を全身に漂わせている。「僕の体にはバルサの血が流れている」と言っている。
一方、ラウールもレアルのユース出身で「骨の髄までブランコ(白=レアルのチームカラー)」だと公言している。
そのルックスで、プジョルとラウールは正反対だが、中身は結構似ている。
カンテラ(育成組織)から育ち、チームのために全力をささげたプレイをし、勝負を最後まであきらめない執念と精神力を持つ。
ラウールよりもフィジカルの強い選手はレアルのカンテラには山のようにいただろう。プジョルよりも、テクニックのある選手もバルサのカンテラには、山のようにいたはずだ。
激しい育成組織の競争を生き抜いて、トップチームの切符を手にする選手は、勝者としての精神力を持った者だけだ。二人の存在は、そういうことも証明している。
外見は正反対、本質は似たもの同士、今年のクラシコの魅力は、この二人のマッチアップにある。

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