巻 誠一郎はずっと変わらない

「ある人は僕らのひとつひとつのプレーが一生の忘れられない思い出になる人もいるだろうし、ある人は僕らのプレーで勇気や元気をもらって帰っていく人もいるんだよね…」
巻誠一郎のブログより(http://ameblo.jp/seiichiro-maki18/)

神様が「巻」の名前を最後に呼んだ。
そのときから、テレビの報道に巻の名前があふれ、インターネットの検索エンジンでも「巻 誠一郎」という言葉が、大量に検索されはじめた。スポーツショップには、巻の背番号11番の日本代表ユニフォームを求めるオーダーが殺到した。
いささかヒステリックな状況だ。
日本は時々、こういった状況を生み出しては、あっという間に覚めていく。案の定、巻がスタメンでも、交代の最初のオプションでもないとわかった今は、メディアの巻報道も少なくなり、少しだけ冷めはじめているようだ。
「巻ブーム」は一瞬の熱狂で、巻もワールドカップが終われば、お笑いタレントのように消費されて、飽きられていくのだろうか?
巻もその波に翻弄されて、変わっていってしまうのだろうか?
ちょっと話を変えて中山雅史=ゴン中山の話をしよう。
ゴンが、知り合いのロックミュージシャンのコンサートに呼ばれた時の話がある。ゴンの奥さんがテレビで話していたのだが、「ミュージシャンは、あんなに人を熱狂させてすごいな」とゴンが言ったというのだ。
この話をすると、みんな笑い出す。何を言っているんだと。ゴンさん、あなたは、日本中を熱狂させたじゃないですか。そのロックミュージシャンの比じゃないです。あなたのゴールを日本中が望んでいたのです。
この話は、僕の好きなエピソードの一つだ。
どうして僕はこの話が好きなのだろう?
話を巻に戻そう。
巻がジェフに入団するとき、巻の父親がオシムと面談した。
「あなたは、あなたのお子さんを最後まであきらめない子供に育ててきましたか?」とオシムが聞いたとき、巻パパは間髪をおかずに「それだけは自信があります」と答えたという。
オシムが巻パパの言葉にどれほど影響を受けたかは定かではないが、下手くそな巻を辛抱して使い続けた理由は、巻がどんな場面でも最後まであきらめない姿勢を貫いていたからだ。オシムが大事と考える点で、巻は決してぶれない。
巻はプロのサッカー選手になれたことに驚き、オシムにスタメンで使われることに驚き、そして日本代表に選ばれることに驚いた。
その過程で、巻のもとに人々の声が届き始める。
「あなたのひたむきなプレイを見ると勇気がわいてきます」
「自分の子供にもあなたのようになってほしいと思っています」
「落ち込んでいたけれど、今日のあなたのゴールで元気になりました」
巻は、徐々に知ることになる。自分のひたむきなプレイが、人々に希望や元気を与えていることを。
そのことを知ってから、恐らく巻のプレイの質は一段高いものになっていった。
どんなに短い出場でも、穴埋めのような選出でも、彼のひたむきさには磨きがかかった。
そして気が付くと23人の最後に自分の名前が呼ばれていた。
オシムが言った。
「彼のようにひたむきに努力する人間が選ばれることはとてもよいことです」
そうだな、と僕は思った。
世の中は、そうでないことの方が多そうだ。
巻の熱狂、ゴンの熱狂、その熱狂の渦中にいても、サッカー選手はまったく変わらないように見える。
それはそうだ。自分のプレイが日本中を熱狂させるとしても、「人気」や「ブーム」と遊んでいる暇など、彼らにはないのだ。
結局、彼らのやることは変わらない。
フィールドに立ったとき、ベストを尽くすだけだし、どんな状況でも結果を残すよう努力するだけだ。
ドイツの地で、巻の出場時間は短いかもしれない。あるいはまったくプレイできないかもしれない。
少しでも出場できれば、それがどんなに短い時間でも、巻はベストを尽くすだろう。
たとえ、出場できなくても、ジェフに戻った巻は、変わらずにひたむきなプレイを続けるだろう。
僕は思う。
サッカー日本代表。
これほど過酷で、これほど幸せな職業が他にあるだろうか?

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コメント

  1. 中澤めぐみ より:

    巻選手にはいつも励まされます。先週、松本のアルウインでの練習試合を観に行きました。長野にいて巻選手に会えるなんて考えてもいませんでしたので、嬉かつたです。お金を貯めて、毎年試合を観に行こうと思いました。

  2. kamakura16 より:

    本当に巻選手、変わらないですね。とことんひたむきにやる、ということにおいて。
    オシム氏の考え方や、巻選手の行動を見ていると、僕の毎日は、これでいいのかと、自分に問い掛けることになります。僕は今日一日、正しい戦略で、ひたむきにそれを実行したのだろうか、と。
    僕も、過酷で幸せな毎日を送るべきだ、と思いました。

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