走りまわるネドベドを支えるもの

「我々チェコ代表は、一瞬にして、偶然に生まれたチームではなく、長い年月の積み重ねによって生まれた必然的な集団だ」パベル・ネドベド Number Plus Augut2004 欧州選手権総集編より

ドイツワールドカップも1次リーグを終えベスト8が今朝決まった。
大きな番狂わせも少なく、ほぼ順当に進んでいるという中で、チェコの一次リーグ敗退は残念なできごとの一つだった。もうちょっと見たかったなあ、と思うが、イタリア、ガーナ、アメリカ、チェコという結果的に一番苦しいグループの中で、主軸の選手の怪我が相次ぎ、致し方ない結果だったかもしれない。
チェコ代表の一つのピークは、前回ポルトガルで開かれたユーロ2004の大会だろう。オランダに2-0とリードされながら、監督の知的な采配とダイナミックな動きで2-1、2-2、2‐3と逆転していく。シュート数も、攻撃的なオランダをまさり、目の前で美しい攻撃サッカーを見せられて、本家オランダは屈辱だっただろう。
あのころのチェコは限りなく無敵に見えた。チーム全体が勝利への確信にあふれ、チーム全体がダイナミックに動いていた。彼らの作る風が、見ているものの肌にまで届くような感じだった。準決勝のギリシャ戦で敗退し、決勝には進めなかったものの、深く記憶に刻まれたチームだった。
サッカーでは、負けたチームの中に、美しいチームがあることが多い。逆に勝ち進んでいるチームの中には、ひどいサッカーをしているチームがあったりする。
ドイツのワールドカップで、チェコは1次リーグであっさりと負けてしまったのに、どうもやっぱり記憶に残りそうな感じだ。チェコ代表でネドベドを見る最後のチャンス、という思いも重なっているからかもしれない。
チェコの中心には、ネドベドがいる。寒いヨーロッパをイメージさせる銀色のモップヘアが、少女漫画の脇役にいそうな雰囲気をただよわせている。
それが、ユニフォームを脱ぐと、少女漫画的な顔の下に、隆々とした筋肉が現れるので、なんとも言えずアンバランスな感じだ。
ネドベドはよく走る。動き回る。
今回もまた、どのゲームを見ても、ネドベドのすごさを実感する。ピーク時に比べれば、きっと6割か7割ぐらいの出来だろうが、それでもほとんどのチャンスに絡み、ピンチを未然に防ぎ、彼が走り出すと必ずフィニッシュまで展開された。もう30を超えているが、圧倒的な存在感だ。
「ああ、ウチのチームにネドベドがいればなあ」とため息をついているコーチや監督が世界中にいたはずだ。
走るイメージの強いネドベドだが、実はよく歩いている。トコトコと歩いている場面がずいぶんある。歩いているから、いくら何でもマークをはずしていると、そうすると、あるとき、突然ばっと走り始める。
ネドベドがボールのないところで、突然縦に走りはじめる。あれ?どうするんだろう、と思うとそのネドベドの走る足元に少し離れたサイドからパスが出る。ネドベドはトップスピードになっているから、イタリアのディフェンスも、体を寄せようとするが間に合わない。そのまま走る勢いを落とすことなく、フリーでシュートを打つ。その間、ネドベドの姿勢はまったくぶれない。
ネドベドはやっぱりすごい、と思う一方で、トップスピードのネドベドが少しも崩れずに進んでいけるパスが出たのは、それもまたすごい話なのではないか、と思う。
ネドベドの動きを察知して、まわりも連動する。その辺に少しもチームの迷いがないように見える。
ネドベドを見ていると、彼の凄さばかりに目がいってしまうが、さらによく見ていくと、周りが彼に連動しているのがわかってくる。走り出したネドベドに、その走る動きを止めずにつなぐ味方がいる。あるいは、彼が走る先が、味方が作ったスペースであったり、逆に彼がイタリアディフェンスを引き連れたときに、味方選手がうまくパスを受ける場所に入り込んでいる姿も発見した。すべては流れの中で展開されている。
ネドベドは確かにすごいが、彼が1人で走っているわけじゃない、と気づいたとき、「むむむ、これは」と思い始める。「走るサッカー」って、途方も無く難しいのかも、と何となく気づきはじめる。
「走る」は普通、1人の行為だ。だから「走るサッカー」という言葉が「個人ががんばって汗を流すサッカー」のように響きがちだ。
「走っていない」と誰かを怒る場合、選手個人の意識が低いみたいに響いてくる。でもなぁ、と思う。当たり前だが、11人が揃って100m走をやるわけじゃない・・・・。
「走る」
ひょっとすると今後、サッカー日本代表のキーワードになりそうなこの言葉だが、それは一見単純そうに見えて、実は「むむむ、これは」なのかもしれない。
ネドベドのプレイを繰り返しビデオで見ているうちに、彼の声が耳元で聞こえて来るように思えた。
「走るサッカー」だって? でも、それは長い積み重ねが必要だよ、と。
「走る」を積み重ねる。しかもチームで? いやこれは大変だよ、きっと。

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コメント

  1. フミ より:

    大内さんお忙しい中、返信を常に送って頂き感謝致します。
    私は日本人が目指すスタイルはチェコだと思っていました。EURO2004の予選からチェコの戦いぶりを見て確信しました。
    絶対的なストライカーがいない
    サイドアタッカーがいない
    得点力のあるMFが多い
    日本との共通点が多いですよね。
    EURO本戦でも優勝したギリシャのようにひたすら守って、カウンターやセットプレーのみに頼るようなサッカーではなく(凄い事は凄いのですが、ギリシャ国民以外は印象に残らないサッカー)、チェコは一つのスタイルとして全世界に知らしめましたよね。
    大内さんが仰るように、チェコのピークはEURO2004の予選から本戦にかけてでした。しかし、わずか1年間でしたが、個々が劣る戦力であっても強豪国を圧倒できるチーム力を作り出す事ができる。
    ユースから育ててきたチェコのブリュックナー監督の手腕には驚きます。(オシム監督とはサッカーのスタイルだけじゃなく、風貌も似てますね)
    最後に私と友達とのやり取りを・・(EUROをTV観戦中)
    「チェコのスタイルは日本の理想像だよなぁ・・」
    「日本に202cmのFWいないだろ!!」

  2. >「日本に202cmのFWいないだろ!!」
    僕も同じこと思いました!
    >ブリュックナー監督の手腕
    格好いいおじ様です。
    日本代表も世界を驚かせるようなチームになってほしいと思います。
    そして他の国に勇気を与えるようなレベルまでいければ、本当に素敵です。
    それができそうに思うのですけどね。。。

  3. ちょろん より:

    こんにちは。
    読んでて感動してしまいました。ネドヴェド大好きなので。EUROの対オランダ戦はビデオで永久保存してます。見てると涙出てきますね。彼のような選手が日本にもいればなあ。
    それにしてもモップヘアって(笑)。せめてきのこヘアって言ってあげてください(笑)

  4. ちょろんさん コメントありがとうございます。
    >モップヘアって(笑)。
    >せめてきのこヘアって言ってあげてください(笑)
    あ、モップヘアって死語ですか?
    でも、初期のビートルズとか、モンキーズとかにネドベドがいても似合うように思うのですが、、、

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