カンナバーロとマラドーナの常識 防御は最大の攻撃なり 

「90年ワールドカップ準決勝イタリア対アルゼンチンのボールボーイだったものにとって、決勝で100試合出場を祝えるなんて夢の頂点だ」
ファビオ・カンナバーロの決勝での言葉(AP通信)

 

“For someone who was a ballboy at Fuorigrotta in ’90 for the Italy-Argentina semifinal, reaching this final celebrating my 100th cap is the coronation of a dream,”
“From ballboy to captain, Cannavaro gets 100th cap in World Cup final” By ANDREW DAMPF, AP Sports Writer

ワールドカップはイタリアの優勝で終わった。
現代サッカーは、守備が厳しくなり、攻撃の目を摘む戦術が多いと思っていたので、ドイツワールドカップは、守備的な大会になるのだろうと勝手に予想していた。
それがフタをあけてみると、グループリーグはウレシイ誤算で、攻撃的な試合ばかりだった。鋭いミドルシュートの弾道がゴールに向かうスローモーションの映像は、この上なく美しい。
決勝トーナメントの組み合わせを見たとき、このラインアップで攻撃的なゲームが続いたら、いや、もう溜まりませんな、と今度は始まる前と逆の期待感が高まった。
しかし、いつでも予想は裏切られる。
決勝トーナメントに入ると、とたんにゲームは守備的な感じになっていった。
結局、守備ですかねーとなって、守備がわからない素人の僕は、つまらなそうな顔をして文句を言うはずだったのだが、、、
どうも今年のワールドカップに関しては、様子が違う。
そもそも、ディフェンスは素人にとって難しい。フォワードはわかりやすいし、そこに決定的なパスを出すミッドフィルダーもワクワクさせる。だいたいが、ディフェンスの瞬間は攻撃の瞬間だから、素人の僕の目は、攻撃側を見ている。ディフェンスはいつまでたってもわからない、、はずだった。
ところが、どうもイタリアの守備を見ていて、ワクワクするのだ。
守備を見て興奮する。これは、僕にとって初めてに近い感覚だった。
その原因は、キャプテン翼とルパン三世(特にミネフジコ)で育った、イタリアのセンターバック=カンナバーロである。
イタリアが勝ち進むにしたがって、何度も彼の身長を確かめるために、インターネットを検索した。いや、何度見ても同じだ。
175センチ、または176センチ。
しかし、彼は何の違和感もなく「守備の国」の一番後ろに陣取っている。
かつてイタリアは、守ってばかりのつまらないチームと考えられていた。攻撃大好きなクライフなんかは、「守備は完璧だが攻撃の仕方を忘れたチーム」みたいな悪口を散々言っていた。
しかし、カンナバーロは、どうも違う。
「カンナバーロがベストプレイヤーだ。目だった選手のいないワールドカップだったが、カンナバーロは別格だ」とマラドーナが発言した。
5人抜きのマラドーナが、イタリアのセンターバックに興奮したぜ、と言っているのだ。
ドイツ対イタリア 準決勝、延長後半ロスタイム
ドイツが直前に奪われた1点を追って、最後の攻撃に転じる。バラックが鋭いライナー性のボールをミドルレンジからフォワードに向けて繰り出す。カンナバーロがクリア。セカンドボールがふわっと浮いて、中盤に落ちる。
そのとき、そのセカンドボールに狙いを定めて、ものすごい勢いで前に走っていたのは、ボールをクリアしたカンナバーロ自身だった。
「わぁー!すごいですねぇ!」と解説者の役目を放棄した井原が叫び、ほぼ同時に僕は「なんだこいつは!」と叫んでいた。
ワールドカップ準決勝の、延長の後半のロスタイムですよ?
センターバックにとってどれだけ辛い時間帯か、僕には想像もできない。
それでも、カンナバーロは、何の躊躇もなく自分のポジションを離れて、前に走っていく。そしてそのセカンドボールを奪ってしまう。
そして、例のデルピエロの斜め左45度のゾーンからの美しいループ気味のゴールに映像の中心が移っていく。泣き出しそうなドイツの少女の映像がかぶり、ドイツのベルリンへの夢が破れていく結末へ。
でも、僕の頭には、カンナバーロのプレイがいつまでも、残って離れなかった。
「クリアしたセカンドボールを拾うように」と、どこの監督でもうるさく指示をする。いったんクリアしても、セカンドボールからピンチになる場面が多いからだ。
でも、クリアした人が拾いなさい、と指示を出す監督もいないし、センターバックがクリアしたらそのまま猛ダッシュで走って取りに行きなさい、なんて指示も、ありえないだろう。
常識を超えている。
確かに、その瞬間、そのセカンドボールを拾うイタリア選手はいなかった。何しろ、みんな疲れてますからね。フリーでドイツ選手が、ボールを持てば、明らかにピンチになる。その意味で、彼の守備のアンテナがビビビと来たのだろう。
いや、多分違うな。答えは、まったく逆だ。
恐らく彼はその後の攻撃を考えて、ビビビと来ていた違いない。ドイツは、完全に前がかりになっている。あのセカンドボールを拾えば、次の攻撃は必ず得点につながる。
その証拠に、カンナバーロは、そのまま前線まで行きそうな勢いだった。
カンナバーロは、ボールボーイをしていた時期があった。そのころ彼が見ていたのは、イタリアのナポリにいたマラドーナだった。
マラドーナは、もちろん、攻撃の選手だったが、ボールに対する執着はすごかった。ボールを奪われると悔しがる子供のように、いつまでも追い回したし、ボールを奪った後の攻撃もすばやかった。
勝手な想像だが、まったく違う時代とポジションにいるマラドーナとカンナバーロ、二人の常識は、同じなのかもしれない。
「ボールを奪えば、オレのもんだ」
防御は最大の攻撃なり。

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