イングランドのコーチング哲学に思う

リスクをつねに冒していくことも大切です。それによって、指導者としての自分のスタイルの物にしていくのです。サッカークリニック 2006年12月号 イングランド協会ライセンスコーチの記事より

インターネットの仕事をしていると、地位も境界もなく人に会える。その中には、社長といわれる人々がいて、そういう人たちにも、ずいぶんあってきた。
多くの社長と接してきた結果として、僕が得た結論は一つだけだ。
それは「ひとりひとりぜんぜん違う」というものだ。
業界によって傾向が同じということもないし、年齢でも似た傾向はない。会社の大きさやベンチャーだからといって、社長が似ているか、というとそんなこともなかった。
「成功する経営の法則」なんていうのは、本の上だけでの話しだ。法則はあるが、それは個性的で、一人一人違う法則だ。
さて、サッカーの世界に話を向けて、子供を育成するときの話をすると、これが会社の経営よりも、もっとやっかいだ。
関わってくるグループは、子供たち、コーチ、親、クラブ(学校)ということになる。会社でいえば、株主と顧客と経営者と従業員という感じだろうが、会社より、もっとやっかいだ。
この4つのグループが、もうぜんぜん違うベクトルを向いている。どれくらい違うかについて、話し出すと長くなってしまうが、ちょっと考えてみても、「ベクトルなんかない子もいるし」というところからはじまって、「うちの子を日本代表に」という親まで含めて、話は尽きない。
経験上、もっともベクトルが短期的なのは「親」だったりする。
子供の成長を見守るべき「親」が、サッカーのグラウンドでは、「息子の活躍」と「息子の出た試合の勝利」という一番短期的で身勝手な結果に、満足度を求めていたりする。
もちろん、悪いことではないのだが、ちょっと行き過ぎると、少年サッカーの試合なのに、相手チームをやじったり、審判に文句をつけたり、自分の子供を試合中に叱るなんて、ことが起こっていく。
そもそも親がこうなっている一方で、クラブや強豪校というサッカー度が高い入れ物もあって、こっちも、求めるものが、短期的だったりする。
「子供たちの活躍」と「クラブの勝利」ということで、一見、親と一致しているようだが、その実、「あなたの子供とは限らない」という点で、激しく対立する根っこを抱えている。
親とクラブという、本当は大きくどっしりと構えてほしい二つのステークスホルダーが、短期的な方向の違うベクトルにいるので、間に挟まれたコーチと子供たちは、常に構造的な歪みの根っこを持っていて、「成長」という長期的なプロジェクトを運営しにくい状況になっている。
かくして、子供と接する少年サッカーのコーチの悩みは深くなる。
ちょっと会社にたとえてみよう。
少年サッカーのクラブは、会社が従業員の成長だけを考えて経営しているようなもので、経営陣が目先の業績以上に、社員の成長だけを願って仕事をしていることになる。
さらにいえば、社員が6年とか3年ぐらいで出て行って、そのことについて「成果」や「効果」や「業績」を問いにくい状況になっている。
一方で、社員はそんなことに感謝するでもなく、会社に来なくなったり、辞めてしまったり、塾に通いはじめてしまうわけだ。
だから、そういう理不尽で、想像力を働かせることが難しい環境に身をおく少年サッカーのコーチ、というのは、会社の経営者なんかより、もっともっと「自分」がしっかりしていないといけない、と、そういうことにならないだろうか?

リスクを常に冒していくことも大切です。それによって、指導者としての自分のスタイルの物にしていくのです。(中略)いまでは日本でも200人ぐらいのFAレベルのコーチがいると思います。先ほども言いましたが、私たちが望んでいるのは、それぞれのオリジナリティを持った200人のコーチであってほしいということです。やはり違った方法で指導すれば、子供たちも違うように成長していくと思っています。

ドイツのワールドカップ惨敗という結果に悩み、日本サッカーが強くなるためにどうしたらいいだろう、と考え始めると、少年サッカーのコーチの水準が上がっていくことが、とても大切になる。
トレセン制度を作って、少年サッカーの教育指導要領を作って行き渡らせる。それは、とても大切なことだ。海外のサッカー先進国の少年指導者を日本に呼ぶ試みもはじまっているようだ。
だが、それでも、結果として「自分」がしっかりした「コーチ」が育っていかないと、しっかりした「子供」も育たない。
マニュアルが行き渡り、マニュアル指導が進むと、マニュアル的な「うまい子供」が育っていき、世界と闘えるチームにならない。

コーチングするときに気をつけないといけないのは、選手の特性を消さないことです。選手のいいところを消してはいけない。もしそれが練習によって消えてしまったら元も子もありません。(中略)勝利もやはり大切ですが、自分が子供たちに教えたプレーができるようになったことに対しても、指導者は幸せを感じてもいいのではないでしょうか。

育成のマニュアル以上に、指導者に教えるべきことがあって、それは、少年サッカーの育成たずさわる誇りと情熱の方だ。その上で、コーチがリスクをおかしながら、自分も成長していくことが求められる。
イングランドのサッカー協会の少年指導のコーチング哲学には、以下のような文章がある。

選手が成長するために、指導者は全力でセッションに取り組まなければならない。指導者の情熱が選手たちに伝わるように、そして生涯サッカーを愛してくれる人が多く生まれるように接しなければいけない。

経済大国の日本に個性的な社長たちが、切磋琢磨している。
サッカー大国を目指す国では、少年サッカーのコーチという職業が、立派で困難を伴い、けれども喜びの多い幸せな職業だ、ということをもっと言っていかなければ、とそう思う。

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