ライカールトとテンカーテ バルサの不思議な組み合わせ

「ライカールトがいたっていなくたって何も変更はないよ。今までどおりの準備をすればいいだけさ」2005年12月3日 ライカールト監督が気管支炎で不在になるビジャレアル戦を前にしたテンカーテ ヘッドコーチ(当時)のコメント

昨シーズン、チャンピオンズリーグと、スペインリーグの二つの栄光を手にしたバルセロナが、苦しんでいる。いや、正しくは、苦しんでいるという報道が多くなっている。
報道の多くは、「やっぱりテンカーテがいなくなったからだ」という見方で一貫している。
テンカーテ? 誰だ?
詳しいサッカーファン以外は恐らく聞いたことがない名前だろう。
昨シーズンまでのバルセロナは、ライカールトというオランダ人が監督だが、その下に、テンカーテという年上のオランダ人がヘッドコーチでつくという構造になっていた。
そのヘッドコーチのテンカーテが、3年の契約を終え、今季はバルセロナを離れて、オランダの名門アヤックスの監督に就任している。
バルセロナは実際にはライカールトのチームではなく、テンカーテのチームだ、という評判は、ずっと言われていた。
監督よりも、参謀の方が、バルセロナの核だった、という話だ。
参謀が表に出ることは少ないが、それでもバルセロナ関連の記事を追いかけると、いくつかテンカーテの発言を拾うことができる。
2005年の12月ビジャレアル戦では、ライカールト監督が気管支炎を患って、監督不在になるという事態が訪れた。そのときテンカーテについての記事がバルセロナのホームページに出ている。

オランダ人(テンカーテのこと)はこう発言した。
「ライカールトがいたっていなくたって何も変更はないよ。ビジャレアルとも闘うことに変わりはないし、今までどおりの準備をすればいいだけさ」
チームはいつもライカールトを抜きで練習を行ってきた。
「ライカールトとは、毎週ちゃんと話し合っている。どんな練習メニューか、それがどんな風に進んだか。次の試合に誰を出して、誰をはずすか、についてもきちんと彼と話している。必ず3-4人は抜ける選手がいるからね」

この小さな段落から読み取れるのは、ライカールト監督がいなくたって少なくとも日々の準備については、何の影響も無かった、ということだ。
他の記事を見ても、実際にバルサの練習はすべてテンカーテという年上のオランダ人が指揮を執り、戦術の核となる部分も、テンカーテが決めていたということは事実のようだ。
そういった事実を調べ始めると、大成功のバルセロナというチームが、不思議な構成で成り立っていたことを思い知る。
まず、ライカールトは名選手であることは疑いがなくとも、監督としての経歴はダメダメだった、という事実だ。
オランダ代表監督として母国開催のユーロ2000の指揮を振るったが、準決勝で、退場者を出し10人になったイタリアに敗れ去った。
その後、オランダリーグのスパルタ・ロッテルダムという伝統のあるチームの監督になるが、この歴史あるクラブを、2部に降格させてしまったのだ。
一方、テンカーテという人物は、オランダ国内では、すでに名監督という評判が定着していた。経験豊富な名将で、弱いチームを少ない戦力ながら、必ず上位に導いてきた実績がある。
不思議な構図だ。
こんな駄目な監督を、なぜバルセロナが採用したのか?
経験実績ピカイチの年上の名監督が、なぜヘッドコーチに納まったのか?
そして、ライカールトが戦術とトレーニングを、テンカーテに任せきったという、丸投げ感覚。
なんだか、こう書くと、ライカールトはお飾りのようだが、そうでもない。モーチベーション作りや、個性の強い集団をまとめる求心力は、ライカールトにある、という評価だ。
事実、バルセロナから監督に対する不満が聞こえることはほとんどない。
それに、やはり名選手が監督という図式は、PR効果が高い。
テンカーテはよくて、ライカールトは駄目という簡単な図式に落とし込むこともできる。多くの報道はそうなっている。
でも、僕はここに「新しい組み合わせ」を見たように思う。
「そうか、こんな組み合わせもありなのか」という膝を打つ感じだ。
そして「駄目だと思っても、組み合わせ次第で大丈夫じゃん」という逆転の感覚だ。
振り返ると今年、日本のJリーグでは、ヘッドコーチが監督になってしまうケースが目立った。
チームが成績不振だと、監督を切るという図式は欧米っぽい。
しかし、人材不足の日本では次の監督が決まらないので、ヘッドコーチがそのまま指揮を取る。
それがうまくいった稀なケース(横浜FCの高木監督)もある一方で、駄目だった、あるいは変化がなかった、というケース(横浜FMの水沼監督)も多い。
そして、ヘッドコーチは若いので、こういった面でも犠牲者は、若手の監督候補生になっていく。
今後の10年間のJリーグを考えたとき、監督をどう育てていくか、というのは、大きなテーマだ。監督の質が高まらなければ、Jリーグの質も高まらない。
「名選手ばかりを監督にするな」というまっとうな意見もあるし、僕もその意見に賛成だが、名声のない質のよい監督を見つけていく作業は、とても地味で根気のいる作業だ。まだまだ歴史が必要だろう。
そうなると、今後のカギを握るのは「参謀」だ。
参謀という役割がいかに重要か、という話は、日本の歴史や経営の世界でもよく語られる。むしろ日本の得意分野のはずだ。
オーラのある社長と地味な名参謀という役割分担は、チームのバランスを絶妙な味に高めていく。日本のソニーやホンダの経営を作ってきたのは、そんな組み合わせだったはずだ。
集客やブランドを優先させて、名選手をいちかばちかで、監督にしてしまうとして、そのときに、ライカールトとテンカーテという組み合わせに、思いを巡らせてほしい。
監督という存在は、監督一人だけでは成り立たない。
大事なのは、監督よりも参謀だし、組み合わせ次第で、ダメ監督も伸ばしようがある。
来シーズン、監督が決まっていないJのチームがいくつもある。
どうだろう? 思い切って新しい組み合わせを試してみないか?

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