ジャンフランコ・ゾラ ケーキの上のさくらんぼ

「あれはなんていうか、ケーキの上のさくらんぼのようなものだ」ジャンフランコ・ゾラ チェルシー・オフィシャルDVDのロングインタビューより

「のだめカンタービレ」がクラシックブームを生んで話題になっているけれど、今から27年以上前にクラシックを描いた名作が少女マンガにあった。
くらもちふさこというマンガ家の「いつもポケットにショパン」だ。1980年から別冊マーガレットに18回連載され、コミックスは全5巻。二つの作品を比べることはできないが、すばらしい作品だった。
遠い昔のマンガだからうろ覚えだが、このマンガには素敵なセリフがたくさんあった。「きしんちゃん」という少年がピアノを弾いている。同じ年の主人公の須江麻子がその少年のピアノを聴きながら、おおよそ次のような素敵な言葉を言う。
「きしんちゃんがピアノを好きなんじゃなくて、ピアノがきしんちゃんを好きなんだ」
話をサッカーに戻すが、ジャンフランコ・ゾラという選手は、まさにそんなセリフが似合うサッカープレイヤーだ。
「もちろんゾラはサッカーが好きだけど、それ以上にサッカーの方がゾラを好きなんだ」
ゾラはイタリア人で、バッジオとほぼ同じ時代を生きた。
バッジオはワールドカップで有名になったが、ゾラはワールドカップと相性がよくなかった。だから世界的にはそれほど有名ではないが、彼のプレイを見たものは、サッカーの魅力がそこに凝縮されていることを知る。
チェルシーの口座にロシアの富豪が大金が振り込まれる時期と入れ替わるように、チェルシーを去ったから、チームの栄光ともあまり縁がない。
それでも、チェルシーのサポーターには、もっとも愛された選手の一人だ。彼が去った後も、背番号25のサッカーグッズは、スタンフォードブリッジのオフィシャルショップにあふれている。
ゾラのゴールはどれも素敵だ。
吸い付くようなトラップと一瞬のひらめき、シンプルだが奥の深いシュート、そしてマラドーナ直伝のフリーキック。ナポリ時代にマラドーナはゾラを自分の後継者だと公言し、二人きりで何度もフリーキックの練習をしたという。だからゾラのニックネームは「マラゾーラ」だ。
特にすばらしいのは、2002年1月16日イングランドFAカップ、ノーウィッチ・シティ戦で見せた、バックヒールによるゴールだ。
僕がコラムを連載している携帯サイト「「激!伝説動画」(旧名:日本蹴球劇場)で、その伝説のゴールシーンが見れるが、何度見ても、あきれるしかない。
右からの鋭い低目のコーナーキックを、ぎりぎりのニアに飛び込んでゴールする。もちろんキーパーは動けない。ゾラのヒールは正確にボールを捉えている。
明らかにそのヒールによるゴールを、彼は走りこむ最初からイメージしていた。

「あれはなんていうか、ケーキの上のさくらんぼのようなものだ。イタリア式に言うとね。とてもいいゴールだ。もう一度やろうとしてもできないよ」

その魔法のゴールを振りかえって、ゾラは笑う。
イタリアには確かにさくらんぼを使ったリキュール入りの有名なケーキがあるけど、ちょっと僕には意味不明だ。
でも、きっと子供から大人まで、そのさくらんぼを見ると特別大好きになる、そんな感じだろうと勝手に思っていよう。
ゾラはすでに引退しているものの、今でも復帰してくれ、とあちこちから言われている。
チェルシーを買った石油王も、実はゾラがとても好きだ。ゾラを戻すよう自ら説得したというニュースが流れ、ある日のスタンフォードブリッジで、ゾラは石油王の隣に座っていた。
実現には至らなかったが、昨年もオーストラリアリーグにゾラが復帰する、というニュースが流れた。
身長は168センチ、体重は67キロ。どう見ても公式の身長よりも小さく見える。
チェルシーのスタンフォードブリッジの裏には、大きな墓地があり、そこにはたくさんのリスがいる。その森の小動物がそのまま、スタンフォードブリッジの緑の芝にあらわれたような、そんな雰囲気が、ゾラの外見の特徴だ。
フィジカルが弱く見えたために、チェルシーに来た最初はフォワードではなくミッドフィルダーとして使われた。
ゾラの頭の上を、ロングボールが行きかう中で試合をしていたという。
やがて、フォワードが怪我をすると、ゾラはフォワードとしてプレイをはじめる。そしてそこから目覚しい活躍をはじめる。
このあたりの運のよさは、ゾラ好きな、サッカーの神様のえこひいきを感じる。
そうだよな。単純な「フィジカル」よりも大切な要素はサッカーに山のようにあるもんな、とゾラを見ながら僕はそう思う。
「フィジカル」という言葉は、ドイツワールドカップ以降、僕らにとって痛い言葉になって胸にささったままでいる。でも、フィジカルが絶対だといわれるイングランドでも、森の小動物のように小さなサッカー選手が、魅力的なサッカーをプレイすることはできる。
今日も小学校の校庭で、子供たちがサッカーをしている。
「なんか俊輔っぽくない?」
子供たちが、自分たちのドリブルの切り返しを自画自賛している。
いつだってそうだ。少年たちが憧れるのは、フィジカルの強い選手ではなく、ファンタジーあふれた選手たちだ。
フィジカルが足りない。それは単なる事実だ。
そんなことは毎日東京の山手線に乗っていたってわかることだ。この国がフィジカルで外国とまともにやりあえる日が来るとはとても思えない。
そんな事実を追いかけても、日本サッカーの応用問題は解けない。
日本人選手のサッカーが、ケーキの上のさくらんぼのように、おいしく見えなければ、日本のサッカーの発展なんかきっとない。
子供たちのためには「ケーキの上のさくらんぼ」を食べるワクワクした喜びを体験させた方がいい。
だから、、、
かなわない夢かもしれないけど、誰かゾラを日本に呼んでくれないだろうか。
日本の子供たちに、サッカーの神様さえ好きになってしまうゾラのプレイを一度でもいいから、見せてあげたい。

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コメント

  1. cacchao.net より:

    ジャンフランコ といえば

    こんなものもありますよ。ぜひお越しください!

  2. cacchao.net より:

    ジャンフランコ といえば

    こんなものもありますよ。ぜひお越しください!

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