ベニテスとモウリーニョ 縦か横か?

勉強のためにイタリア、イングランド、ブラジルを回った。ファビオカッペロのようなコーチにもたくさん質問をした。わからなければ、答えを捜し求めるんだ英国リーグ監督協会 ベニテスへのインタビュー2005年10月5日

UEFAチャンピオンズリーグの準決勝、ベニテスとモウリーニョの戦いは、ベニテスが勝利した。勝利といっても、これがまた実にベニテスらしい勝ち方だ。2試合の合計は1-1の引き分け。そしてPKで決着がついた。
モウリーニョは、昨年の疑惑のゴールも含めて、自分たちは負けていない、と言い張るのかもしれない。
どちらもイングランドのチームだが、監督はスペイン人のベニテスとポルトガル人のモウリーニョ。二人は、自分の生まれた国を離れて、ヨーロッパというステージを横に横に進んでいった。
この何週間か、モウリーニョとベニテスを比較する話が増えた。
二人が似ている、という人もいれば、いやぜんぜん正反対だ、という人もいる。
正反対だ、という人は、当然、彼らの外見やサッカースタイルがぜんぜん違う、という点を挙げる。
第一顔が違う。モウリーニョは濃い顔をしているが、ベニテスはのっぺりとしている。
ゲーム中の監督のしぐさも違う。モウリーニョは座った姿勢でメモ用紙に何かを書いている。そのメモはとても秘密めいている。
一方のベニテスは、立った姿勢で、指の人形劇を演じている。
選手に指示を送っているらしいのだが、時々ベニテスの手は口元に運ばれ、お餅を食べるしぐさに変わったりする。
サッカーのシステムも違う。
少し下がり気味のディフェンスブロックを固めて、無敵のフォワードを前線に置く、その点では同じだといえなくもないが、やはり目の前で展開されるサッカーはぜんぜん違う。チームが監督の顔に似てくるのか、チェルシーのサッカーは濃く挑発的で、リバプールのそれはどこかゆるく、つるつるとしている。
二人が似たもの同士だ、という意見もある。たぐい稀な戦術家である点は、二人に共通しているが、二人の経歴が似ている、という点も似ている説の根拠になっている。
二人は自分の国でサッカーをしていたが、まったく無名のままに選手生活を終えた。モウリーニョがまったくプロになれなかったのは有名な話だ。
ベニテスもレアルマドリッドの下部組織にいて、トップチームにも昇格するが、全く無名のまま選手生活を終えた。
やがて、複数のクラブを経験した後、同じようにUEFAカップというヨーロッパ2番手グループのカップ戦を制して、一躍有名になった。
その後、二人はイングランドのプレミアリーグの監督になる。ヨーロッパに強いこと、が二人をイングランドに呼び寄せた共通の理由だ。
ベニテスはのっぺりとした顔ながら、結構、苦労をしている。
いきなり二つのチームから解雇をされている。一つのチームからは9ゲーム指揮を執ったとこで辞めさせられている。そんな監督に誰も職を与えようとはしない。それが現実だ。

レアルにいたころは、様々なプレッシャーから守られていた。でも一人で他のクラブのコーチになれば、多くの問題に自分で責任を取らないといけない。(中略)最初の二つのチームでヘッドコーチをした経験はうまくいかなかった。二つとも辞めさせられたよ。それから勉強のためにイタリア、イングランド、ブラジルを回った。ファビオカッペロのようなコーチにもたくさん質問をした。わからなければ、答えを捜し求めるんだ

情熱と努力が必要だ。監督として自分を磨くためなら、妥協のない時間を使って、情熱を注がないと駄目だ。そして自分の能力を信じることだ。(中略)実家に一人でいて、1本に3試合づつ入った1500本のビデオを詳細に分析したんだ

今のベニテスからは、サッカーがうまかった少年時代を想像できないが、レアルのトップまで行くのだから相当にうまかったはずだ。しかし、彼は若くしてプロ選手をあきらめる。
ベニテスと同じレアルマドリッドの下部組織で、ベニテスより成功に近い若者は、きっと上を見ていたはずだ。
所属している組織の中で、中途半端に成功すると、かえって視野はせまくなる。その組織の中でどう「縦」に上がっていくか、ということにエネルギーを使う。
ベニテスは、自分の国でサッカー選手として偉くなれないことを早くから悟って、自然に「視界」を変えていった。レアルで控え選手のころから、コーチの手伝いをはじめる。
失敗や挫折は、人の視界を変える。縦に進むのを辞めたとき、ベニテスの世界もモウリーニョの世界も、突然水平にビローっと広がる。
そして一人で歩き始める。
ベニテスは二つのチームを解雇されて、イタリアやブラジルを勉強して回った。
モウリーニョもイングランドにコーチを勉強しにいき、語学力も磨いた。
今や自国のリーグよりもヨーロッパの戦いの方が重要なのは、どの監督も同じだろう。それでも、この二人からは、根っからの視野の違いを感じる。彼らがヨーロッパを見ている視界と、ファーガソンの持っている視界とは明らかに違うように見える。
縦にドメスティックに階段を上るよりも、水平に広く視界を持って生きたほうがいいさ、と二人はそう言っているように見える。そのためには、独自に勉強を続けることだ、と二人は言う。
それは、今僕らが直面している会社とビジネスの世界とちょっと似ているような気もする。
ベニテスとモウリーニョ。二人は正反対なのに、二人はとても似ている。
ベニテスとモウリーニョ。彼らの「視界」は垂直にではなく、水平に伸びてきた。

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コメント

  1. 匿名 より:

    いつも楽しくブログを拝見させていただいてます。
    今回のベニテスとモウリーニョに関する記事も興味深いものでした。二人とも溢れんばかりの情熱を行動力の源にして、世界のどこからでも貪欲に物事を吸収することで成功を築き上げてきたということでしょうか。
    ただ、素朴な疑問として、縦へ縦へと行くファーガソンもまた、ヨーロッパの舞台で少なからず成功しているという事実をどう解釈すればいいのでしょうか。彼にもまた、サッカーに対する溢れんばかりの情熱があると思うのですが。
    このあたり、大内さんなりの解釈があればいつかお聞かせ願いたいところです。

  2. コメント、ありがとうございます。
    そうですね。ファーガソンもヨーロッパで勝利してますよね。縦は駄目だ、という話ではないですね。
    縦に進んで出世する階段というのが昔からあって、それをファーガソンは登っていって、その頂点にヨーロッパがある、という感じでしょうか?
    会社でも縦に出世していって、一番上まで行く人もいます。
    一方、今は転職とか、仕事と関係のないことをやりながら、縦ではなくステップアップしていく道があるように思います。
    ヨーロッパに境界がなくなったのと、仕事のお話ではネットが境界がなくなったので、主婦なんかがアフィリエイトで成功して、ついでに有名企業のコンサルティングやっているみたいな、やっぱり今までのコースにはない感じでしょうか・・・
    どっちも大変なのですが、モウリーニョやベニテスはファーガソンとは違う道を進んで上のほうにきたように思えます。

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