マルディーニ 日本でまた彼を見られるか

18歳で左サイドに抜擢されてから、マルディーニは来る日も来る日も、左足の技術と左サイドバックとしての身のこなしを身につけ、磨きをかけるために、早出、居残りの個人練習を欠かさなかったというエルゴラッソ 2005年10月7日号「CALCIOおもてうら」より

生のマルディーニを見たのは、2003年のトヨタカップのときだ。その時のACミランは、ボカに負けてしまうわけで、それほどよい試合ではなかったように記憶している。
互いに探りあいをしながら、時差ぼけの感覚を補正しつつペースを上げていくような試合だった。
それでも僕の目にマルディーニのすごさはわかった。
ボールを持った相手に身体を寄せて、くるっと回って、そのときにはボールが彼の足元にある。取られた相手も、何でここでボールを取られちゃうのかわからない、という感じの奪い方だ。
テレビで見るセリエAでは、マルディーニのスライディングに何度も目を奪われた。ダーっと駆けていって勢いよくスライディングをする。ファウルになりそうなのにファウルにならない。そして見事にボールだけを奪い取る。奪われたほうが、首をかしげている場面も見たような記憶がある。
マルディーニはスライディングでボールを奪ったあとも、半身で起き上がった不安定な姿勢でフェイントを入れる。もう一人迫って来た相手を軽くふりきって、フリーになると、余裕で前線にボールを送る。
そんなシーンを見るたび「完璧だ」と僕は画面に向かってつぶやいていた。
イタリアの敵のチームの誰かが言った。
「マルディーニの唯一の欠点は彼がミラニスタだということだ」
わかるような気がする。
その完璧な左サイドバックの男が、左利きではなかった、という事実を知って、衝撃を受けた。
最初は当然右サイドバックだったが、ある日、突然左サイドバックをやるようにコーチに言われた、と書いてあった。
18歳に左サイドバックに抜擢されてから、来る日も来る日も練習をして、左足を鍛えていったという話だ。
ウィングのポジションなら、右利きが左をやるのは、わからないでもない。ゴールに向かって切れ込むときに、右利きの選手の方が迫力が出る。
しかし、右利きが、左サイドバックをつとめる、というのはそれほど聞いたことがないし、育成年代のサッカーを見ても、そのようなポジション選択をした場面をあまり見たことがない。
マルディーニの子ども時代の動画もあったので見ていると、確かに少し両足が使えるような感じではある。ドリブルの利き足は右足のタッチが多いが、時々左足が混ざる。そして、左に流れて、左足でシュートをするのだが、それはちょっと不器用な感じに見える。
恐らく、かなり小さなころから、左足を鍛えていたのは間違い無さそうだ。一説には彼の父親が、早くから息子の左足を訓練したという話もあったが、父親はそれを明確に否定している。
当然、子どもたちの多くは、特に右利きの子どもは、両方の足で蹴れるようになりたいと思う。しかし、それはなかなかに難しい。少し練習してはあきらめる子が多い。
素人の僕には、日本にいて英語がベラベラになるぐらい難しいことのように感じる。
そのマルディーニが今季限りでとうとう引退する、というニュースが流れた。
そのころ僕は「ひょっとするとチャンピオンズ・リーグはACミランかもね」と言っていた。
ミランの調子は例年になく悪かったから、あまりそのような予想をした人はいなかった。
予想があたった、と言いたいところだが、一試合でも多く彼の姿を見ていたい、と思ったわけで、要するに予想ではなく願望だ。
そしてここに来て、マルディーニは、今シーズンでの引退を撤回する発言をしているようだ。
膝に抱えている怪我も、ドクターがまだ続けられると太鼓判を押したらしい。
ナンバーのインタビューを読むと、今年イタリア・サッカー界のひどい状況が、かえってマルディーニを「もう一年」と奮い立たせたようだ。
歴史に残るほどひどいシーズンも、結果的にはワールドカップの優勝とマルディーニの引退撤回をもたらしたわけだ。
しかし、それに加えて、もう少し別な理由がきっとあると僕は思っている。
彼自身、体力の衰えを実感する中、そんな中でも、工夫すればまだやれる、という実感をつかんだのではないだろうか。
マルディーニは、若いころ、左足という課題を克服した。
そして、今「年齢」という課題も乗り越える感触をつかんだのだろう。課題を克服したとき、人は成長したと感じることができる。そして、それは何歳になっても起きる。何歳になっても成長の実感は喜びになる。
まだ何試合か、彼の姿を見ることができる。
チャンピオンズリーグの決勝がもうすぐある。ACミランが優勝する、と僕は思っているが、どうなるだろうか?
僕の願望のアンテナは、もう一度マルディーニを生で見れるぞ、という電波を感じている。
ACミラン、そしてヨーロッパ王者のキャプテンとして、世界クラブワールドカップのトロフィーを掲げるマルディーニの姿を、僕はスタジアムで見ることができる。

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コメント

  1. フミ より:

    パオロ・マルディーニ・・
    私はバレージやカンナヴァーロより、彼がイタリア史上最高のディフェンダーだと思っています。
    ポシションや左足について、そんなストーリーがあったことは知りませんでした。
    衛星放送のサッカー実況で有名な倉敷保雄氏は著書の「実況席より愛をこめて」で、「スライディングは免許制度にすればいいのに」とおっしゃっていました。
    スライディングは下手な選手がやると相手をケガをさせる事もありますし、なるほどと考えさせられました。
    (ドイツWC直前のドイツ戦で加地選手に真後ろから危険なタックルをした「トラ選手」には怒りが沸点になりました。)
    マルディーニやネスタなど偉大なディフェンダーと言われる選手のスライディングは絶対に足の裏を見せないですよね。彼らは一つのタックルで相手のサッカー人生に終止符を打つ事になるかもしれないということを心に刻んでるのだと思います。

  2. >「スライディングは免許制度にすればいいのに」
    不可能ですが、まったくと思います。
    スタジアムで、目の前で、小野がスライディングされて倒れこむ姿を見たのが、今でも僕のトラウマです。
    それから日本代表選手がスライディングされるのを見るたびに、ちょっと体が縮みます。
    >マルディーニやネスタなど偉大なディフェンダーと
    >言われる選手のスライディングは絶対に足の裏を見
    >せないですよね。
    そうかー! スライディングをしながら相手へのレスペクトがあるようで、よいですね。
    アジアの戦いはその辺が未熟と言うか、相手をつぶすのが当たり前というプレイが多いので、見ているのが辛いですね。
    >私はバレージやカンナヴァーロより、
    >彼がイタリア史上最高のディフェンダーだと
    >思っています。
    ただただ同意。多分、世界でもでしょうね。
    オオウチコム

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