ベルバトフ スペースの違いが分かる男

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「中にいながら、外から眺めるようにプレイするのは簡単なことじゃない。(中略)家に帰りながら、どうしたら自分とチームが次にうまくやれるかじっくり考えるよ。みんながそうしてくれるといいな。それが良くなるための方法だから」
The Sun紙のベルバトフのコメント 2007年12月31日

ベルバトフという選手がいる。
イングランド プレミアリーグのトッテナムホットスパーズというチームのフォワードだ。代表チームではブルガリア代表のキャプテンでもある。
ベルバトフは、俳優のアンディ・ガルシアに似て、フィールドで静かな迫力がある。
もちろん、外見だけでなく歌も踊りも、、ではなくて、サッカー選手としての実力もある。
今シーズンは得点ランキングのトップ10にも名を連ね、ブルガリアの最優秀選手を何度も受賞している(02年、04年、05年、07年)
決定力あり、アシストもできて、ヘディングも強い。真ん中に構えてよし、サイドに流れてよし、下がってポストになってもよし、とそういう男だ。
ベルバトフをずっと見てきて、彼は「スペース」の違いがわかる男なのかな、とそんなことを思っている。
こんなシーンが典型だ。
トッテナムが攻撃に入ると、ベルバトフが、センターフォワードとして真ん中に構えている。彼にはディフェンスがぴったりついている。ボールをもらうために、サイドに流れるとそこにパスが出る。
ベルバトフは、相手ディフェンス二人ぐらいをひきつけている。サイドでボールを受けると、体を外に向けて、少し外に流れる素振りをみせる。
突然ターンをする。センターにグラウンダーの鋭いパスを出す。ディフェンスが「あっ」と思う間もなく、そこにフォワードのロビーキーンが走りこんでいる。その場所は、まさに先ほどまでベルバトフがいた場所で、今は一瞬スペースになっている。そして走りこんだロビーキーンがシュート!
もう一つの場面はこんなシーンだ。
味方のキーパーがゴールキックで前線にボールを出す。そのボールが出る前ベルバトフは、ど真ん中に構えている。しかし、ゴールキックはサイドに流れ気味なので、サイドに移動する。相手と競り合いながら、しかも難しい姿勢でもきっちりと頭でボールを捕らえる。
ベルバトフがヘディングでボールを落とす場所は、先ほど自分がいた場所で、ぽっかりと大きいスペースになっている。そこに綺麗にボールが落ちる。しかし、そこには誰もいない。ベルバトフは、不満げに両手を広げる。
「なんで誰もいないんだ? スペースが見えないのか?」
ベルバトフは、今、トッテナムに残りたい気持と、さらに上のチームに移籍する気持と半々かもしれない。
残りたい気持の方は、ベルバトフと同じ絵が描けるロビーキーンがいるからだろう。
「ロビーキーンと僕はテレパシーが通じたような連携ができる。とても幸せな関係だよ」
そうベルバトフも発言している。(トッテナムのホームページのコメント 2008年4月4日)
一方で、彼は冷徹なリアリストでもある。自分が見えるサッカーができないと不満を(ただし冷静に)ぶちまける。ブルガリア代表では、こんな発言もあった。

「これは代表チームで、幼稚園じゃない。真実を言うのを侮辱だと受け取ってはいけない。不満のある人間は、自由に出て行けばいい」
(ブルガリアSTANDART NEWS 2007年9月10日)

トッテナムでも、ベルバトフが両手を広げて不満を見せる場面は少なくない。その回数が増えれば、移籍の可能性が高まるのかもしれない。
ベルバトフは、少しだけ中田英寿に似ている。そんなことを言うと、両方のファンから怒られそうだが、、、外見ではなく、サッカーに対する姿勢だ。
「スペース」という考え方を僕はヒデから学んだ。「スルーパス」は中田とともに一世を風靡したが、僕なりの解釈は、「おいしいスペースへの決定的なパス」のことだと、そう納得している。
最初、僕はサッカーにおける「スペース」がよくわからなかった。
それは、丸いお皿のように、動かずにフィールド上にあるのかとぼんやりと思っていた。
立食パーティーの食事が乗った皿のような感じだ。そこにサラダが出ることも、ローストビーフが出ることも、サッカー選手は共通にみんなわかっている、と思っていた。
少したって、それが間違いであることがわかった。
「スペース」は普段は見えない。どこにあられるかもわからない。あらわれては消え、消えてはあらわれる。
やがてスペースの中にも質の違いがあり、とっておきの「おいしいスペース」があることに気づく。それはゴールに直結する「スペース」で、あらわれるのも一瞬だが、消えてなくなるのも一瞬だ。
僕がこの何年かをかけてわかったサッカーの「スペース」は、立食パーティーの神出鬼没のローストビーフのようなものなんだな、という変てこなイメージだ。
そして、そのローストビーフを、味方の複数の人間が感じると、絶大な効果が出る。
中田英寿がスルーパスを出して、そのボールに追い付けないフォワードをしかる場面がときどきあった。
「なんであそこにローストビーフが出るのに、走っていかないんだ」
「そんなん、むちゃっすよ。出る前に匂いとかわかるんすか?」
そんなことを言っているわけはないのだが、決定的なスペースはきっと誰にでも見えるわけではないのだろう。
フィールドの中にいると、そのスペースは、思った以上に見つけづらいはずだ。しかし中田には、それが見えていた。そのおいしい場所を探すために首をたえずふっていた。
そして、ベルバトフにも、その「おいしいスペース」は、よく見えている。それは彼がフィールドの外側からの視点を、いつも持とうとしているからだ。他の選手が、彼と同じように見えていないとき、ベルバトフは両手を広げて不満を表明する。
試合中、ベルバトフは、とても静かだ。ゴールをしてもあまり喜ばない。
激しく動いているが、その運動量はこちらに伝わってこない。屈強なディフェンスに激しくマークされても、体の軸がぶれず、不必要に倒れたりしない。
ベルバトフは、ブルガリアで、サッカーに限らず才能ある子供達への基金を設立し、母国からブルガリアへの貢献で賞を授与されている。現役のサッカー選手なのに、サッカーを超えた社会的な活動もはじめている。

「基金のアイデアは、ソファで寝転がっている時に思いついたよ。色々なことを思いつくが、あまり人には喋らないんだ。夢はサッカー以外にも大きく広がっているが、今はサッカーに集中しているよ」
(STANDART NEWS 2008年4月4日)

自分のポジションとスペースはよく見えている。サッカーでも社会でも。
そんな点もヒデと少しだけだぶってみえる。
来期、ベルバトフがトッテナムに残留するのか、移籍するのか。いずれにしろ、彼の去就でチームの戦力は大きく変わりそうだ。

コメント

  1. パオパオ より:

    はじめまして。こんにちは^^
    モドリッチの記事から、「スペース」という言葉に釣られてこの記事にたどり着きました。
    個人的にはスペースは見つけるのではなくて、作るものだと思っています。もちろん最初からスペースがある時は、素直に使えば良いのですが(笑)
    ベルバトフ選手は前線の基準になるファースト・トップタイプだと思うのですが、僕が観たマンUでの数試合では、自分がやりたい事と味方がやろうとしている事との違いに苦慮している様に感じてしまいました。
    彼が気持ち良くプレーできる環境を作りあげる事を期待したいです。(最近の試合は見ていませんので、すでに解決している問題かもしれませんが(笑))
    ブログを更新するのは大変ではないかと勝手に想像してしまいましたが、管理者の方はPCの専門家なのでしょうか?体調を崩される事無く、このブログが更新され続ける事を期待いたします。

  2. ありがとうございます。
    僕も同感で、ベルバトフはマンUで本領を発揮しているとは言い難いと思っています。
    >体調を崩される事無く、
    >このブログが更新され続ける事を期待いたします。
    暖かい言葉で、書く意欲がわいてきますです。
    大内

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