ユースサッカー 日本人らしいボールの奪い方ってないのか?

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(海外との差は)ボールを奪うという意識と、奪うための技術だと思います。日本の選手の特徴として、体を寄せない、個人でもチームでもボールを奪いにいくという意識が薄いところがあると思います
サッカークリニック 2008年6月号 布啓一郎のインタビュー

日曜日にクラブユースの関東大会というのを見に行った。まあまあの天気で、日差しもほどよい感じだ。サッカーにはうってつけのコンディション。
FC東京の武蔵野の人工芝はよい具合で、前日の冷たい雨の影響も感じられない。
数年前なら、ヴェルディの読売グラウンドでも、泥まみれでユースのゲームが行われていたはずだ。21世紀になってまだ数年しかたっていないのに、雨の翌日にも関わらずユニフォームがきれいなまま試合が進んでいく。
ユースといえどもやはり「ハードワーク」がキーワードだ。
最近のユースチームの力は「選手の技術xハードワーク」という計算式で、だいたい見積もることができる(ような気がする)。
「中盤の守備が現代サッカーの最重要ファクター」とドイツワールドカップでリッピが強調した状況は、日本の高校生のサッカーでもまったく同じように見える。
「高校生からそんなハードワークしなくてもいいんじゃない?」とか「若者なんだからもっとのびのび」と、一つ前の世紀に高校生だった僕は言いたくなる。
しかし、そもそも高校生たちが、コーチに言われて、苦しみながらハードワークをしているかというと、そうでもない。
彼らのあこがれの選手たちも、ヨーロッパの舞台でハードワークを欠かさない。
本心はわからないが、世界のトップレベルがハードワークなんだから「自分たちも」という自発的な空気は、プレイを見ていても感じられる。
監督の細かな指示で動いている、というよりは、選手たちが仕事を率先して真面目にこなしている、という印象が強い。日本人はまじめなのだ。
ハードワークといっても、彼らのハードワークにガツガツとした感じは少ない。
肉体としてのハードワークよりは、仕事としてのハードワークがそこにはある。皮肉な言い方ではなく、若干スマートな感じなのだ。
一人がサイドに敵を追い込んで、もう一人がボールを奪いに行くとか、不用意に飛び込まず攻撃を遅らせて味方のサポートを待つ、といった頭の良いプレイが結構ある。
そのかわり、一対一で体をぶつけあって、ボールを奪いあう、といった泥臭い風景は少ない。
「ハードワーク」なのに「スマート」というのは何だか矛盾しているようでもある。ハードワークといっても、「激しさ」よりは、どれだけ切れ目なく仕事に参加するか、とそんな感じだ。
そんなことじゃダメだ。チーム戦術としての連携を高めるよりも、一対一のプレッシャーをもっと強くチャレンジした方がよい、という意見もありそうだ。
若者たちに「足りないもの」を指摘することは容易だ。今の子供たちは「ガツガツ」としたハングリーさがまったくない。それでは海外に行った時に勝負にならないと。
ちょうど6月の雑誌「サッカークリニック」のテーマは「ボールを奪いに行く!」というものだった。そんな記事を読んでいたからだろうか、確かにフィジカルなぶつかり合いは少ないな、とそんな目でユースの試合も見てしまう。
市立船橋の元監督で、今協会で育成を見ているJFAの技術副委員長の布啓一郎氏は以下のようなことを言っている。

(海外との差は)ボールを奪うという意識と、奪うための技術だと思います。日本の選手の特徴として、体を寄せない、個人でもチームでもボールを奪いにいくという意識が薄いところがあると思います

海外の子供たちは他人のボールを奪いたい、ボールを取りたいという狩りの意識が強い。
一方、日本の子供たちにはそもそもボールを奪い取るという意識そのものが薄い。日本の子供たちにはハングリーでガツガツした遺伝子がない、とそんな話だ。
だから布氏は、子供のころから「ボールを奪いに行くのは当たり前」と思うように教育しなければいけない、と話を展開している。チーム戦術を成熟させるより、個のぶつかり合いを奨励しましょうと。
「好きな攻撃をしたいなら、まずボールを奪え!」と子供たちにしつけるべきだと、、
布氏自身も「日本選手の特徴」と言っているように、「ガツガツ」度が低いのは、まぎれもなく僕らの特徴だ。
僕自身、子供時代を振り返って「ガツガツ」した記憶はあまりない。そんな大人たちに育てられた子供に「ガツガツ遺伝子」は見当たらない。
経験豊富な布氏のことだから、いろいろなことを承知の上で言っている言葉なのだろう。
布氏の言葉は日本人の「特徴」がダメなので、ボールを奪う「技術」が身についていない、という文脈になっている。だから小さいうちから、ボールを奪うために、ぶつかり合いを恐れないように教えるべきだ、、と。
しかし、正直に言うと、目の前でプレイしている選手たちが、「ガツガツ」してアフリカの選手たちとフィジカルで勝負するようになるのか、それが教育で変わっていくのか、いささか疑問だ。高校の3年間は短い。そこで怪我をしてしまっては、元も子もない。
本当に日本選手がフィジカルで勝負するようになるだろうか?
海外の子供たちは、もともとガツガツとボールを奪いに行く遺伝子を持った人たちなのだ。教えなくても、自然とそうなっている。その積み重ねで彼らはフィジカルコンタクトのうまさを学んでいくのだろうが、同じような方法論で、日本人が身につけていくことは果たして可能なのか? 日本らしく、もうちょっと効率よくはできないものか?
日本の高校生は、世界のサッカーの知識が自然に入る環境を持ち、学習意欲も吸収力も高い。与えられた仕事を忠実にこなす能力も世界的に高い。
その「特徴」を生かして、最小限のフィジカルコンタクトでボールを奪う「技術」を、子供たちに楽しく学ばせる。
マケレレの動きをCGにして、ほらこんな風に足を入れて体の上半身をうまく使って奪えば、手品みたいに簡単にボールが取れるんだよ、と教える。
兎の眼をした今野が、さらっとボールを奪う技術を子供たちの前で実演する。
そんなふうに教えたほうが、今の子供たちは反応しそうな気がする。
「ぶつかり合いを恐れるな」と言われると痛そうだが、「日本人でもボールが奪える技術」なら習得の価値がありそうだ。
ガットゥーゾになれ、と言われても困るが、マケレレの手品を身につけろと言われたら、ちょっと楽しそうか?
「日本らしいサッカー」といった時、パス回しの話だとばかり思っていたが、やっぱりもうちょっと深そうだな、と高校生たちのプレイを見てそんなことを考えた。

コメント

  1. sudaiob より:

    狩りをして獲物をしとめる(ボールを奪う)よりも、1対1で抜かれることを嫌がる選手は多いですよね。高校時代に、先輩から「抜かれないことを第一に考えたプレーは卑怯なディフェンスだ」と言われたことを思い出します。
    宮本にしても、中田にしても、僕の目には「卑怯なDF」と映っていました。しかし、実際のプレーを観ていませんが、インタビュー記事などを読むと、二人とも海外の経験から、「勇気あるDF」に変化(進化)したように思えます。
    楽しみです。

  2. オオウチコム より:

    sudaiobさん、どうもです
    海外に行ってはじめてわかることがあり、日本でそれを学ぼうとしても現実的には難しい。
    そういう感じはあるかもしれませんね。
    日本で日本人同士で英会話を率先してやろうとしても、難しい・・・そんな感じか?
    ちょっと違いますかね。

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