日本のクラブユース 近づいているのか遠のいているのか?

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「僕ら(柏レイソルユース)の攻撃のコンセプトには、ゴールするために確率の高いスペースを生み出したいということがまずあります」
柏レイソルユース 吉田監督の言葉 サッカークリニック 2008年10月号

夏から秋にかけて、U-18のクラブユースの大会が続いている。
夏にはJヴィレッジを中心に全日本クラブユースがあった。それにかぶさるように、高円宮杯がはじまる。また少し重なりながら、Jユースカップがぽろぽろとはじまっている。
高円宮杯は、10月11日に国立で準決勝があり、13日には埼玉で決勝が行われる。
僕もいくつかの試合を見ているが、特にクラブユースは、夏のJヴィレッジ(福島県 東京から車で3時間ぐらい)まで足を運んで見に行った。
今年のJヴィレッジの暑さは、いくらかやわらいでいた。何面も続く美しい芝の中で高校生たちが試合している風景は、なんとも言えず美しかった。
Jリーガーの懐かしい顔も見れて(もちろんサインをもらう空気ではない)、今年はガンバの試合で松波正信がいて、鹿島には長谷川祥之の顔があり、常連では広島のゴリさん(森山佳郎)がいて、横浜FCでは後藤義一さんの顔が見えた。
今年は、柏レイソルユースについて、印象深く語る人が多いようだ(高円宮杯はすでに負けているが)。
ディフェンスラインから、丁寧にボールを運び、いつの間にかセンターバックが前に出ていたり、あるいは、両サイドバックが攻撃に参加していたりする。
無理にゴールを目指すというよりは、連携をとりながら駆け引きの中で攻めていく感じで、無理をしないでパスを回すことも多い。ちょっと大人の感じだ。
その柏レイソルユースが、スペインに遠征に行って、現地で絶賛されたというニュースがあった。
レアル、リバプール、セルティック、アヤックス(フランク・デブールがユースの監督)などの強豪クラブのユースチームと戦い、現地スペインで驚くほど評価が高かったと聞く。
ちなみに今年の柏レイソルユースは、ほとんどのメンバーが中学年代から6年間ずっと吉田監督のもとで戦っていると聞く。普通は、中学から高校に上がる段階で、メンバーの多くが入れ替わる。当然監督も変わるのが普通だから、極めて珍しいケースだと言える。
ヨーロッパを驚かせるほどのユースチームが日本にあると聞くと素直に嬉しいが、僕が見た範囲でも、最近のユースは、戦術的に昔より大人びている。
前線からの守備はもちろん、サイドの使い方も含めて、パスと連携で組み立てる感じは、なかなかのものだ。
そして、よく走るチームが多い。言い方を変えれば、走る量でチームの勝利がだいたい読めるほどで、もう「ロングボールでドカン」という風景は、少なくとも僕が目にしたクラブユースの戦いにはなかった。
それだけ戦術レベルが高いと、実は監督が細かく指示をしているのでは、という疑問もわくが、全然そうではない。
もちろん、事前のミーティングやハーフタイムに、細かい指示があるのかもしれない。しかし、僕が見た範囲で、監督はベンチに座ってじっと見ているという風景が多い。
恐らく選手たちの戦術意識が自然に高くなっているのだと思う。
情報があふれ、戦術について普通に語られる世の中で、アーセナルやらバルサのようなモダンな戦い方について、むしろ選手の方に知識があるのだろう。
たとえば柏レイソルユースの吉田さんが語る、こんな言葉に出会うとそのことを実感する。

「僕らの攻撃のコンセプトには、ゴールするために確率の高いスペースを生み出したいということがまずあります」

なんかすごく消化が難しい言葉だが、ゴールにいたる駆け引きと崩しを、いかにきちんと選手たちが判断してできるか、とそういうことだろうと思う。
個人レベルではなく、チームとして、それができることを目指していて、さらに言えば、相手によっても戦い方を変えている。
当然だが、個とチームの「両方」のレベルが上がらなければ、そんなふうにはならない。

「(スペインでは)具体的には一人ひとりのポジショニングにすごく規律がとれている、という言葉を多くもらいました。パスを出したあとにどうポジションをとるか、中盤の選手がセンターバックとセンターフォワードをうまく連結させるかといったことを選手がよく理解している、と(言われました)」

日本人恐るべし、という感じで、ヨーロッパは受け止めたのだろう。
しかし、一方で異なる意見もある。
オランダでコーチ経験を積んだ林雅人さんが、来日時に同じ柏ユースの試合を見て、オランダの育成との違いについてコメントをしていた。

「(テクニックやパス回しはレベルが高いが)ただし、そこから怖さというものはほとんど感じられませんでした。うまくて、ボールもよく回るけど、それで終わってしまう」
「オランダに比べると対人の激しさがゼロに近い。(中略)日本の選手がうまく見える理由の一つでもあると思います。ボールがぽんぽん回って、ボールキープできる裏には、対人での当たりが非常に弱いということも挙げられるでしょう」

そう言われると、日本のユースチームがヨーロッパで輝いたのは、守備や連携、規律といったヨーロッパの若者に見られない美徳があったからかもしれない。
そして、ゴールへの執着、ディフェンスの激しさ、一人一人がリスクを冒す意識、それらは、ヨーロッパの若者たちには普通で、日本チームには欠けている。
やはりこれは、いつもの日本人らしい風景なのか?
技術やパス回しはうまくても、淡白で、ゴールは遠い。
確かに、戦術レベルが上がった一方で、チームの実力は平均化し、「規格外の選手」とか「突出した個」を、見つけるのがいよいよ難しくなっている。
しかし、リスクチャレンジが皆無ではない。何人かの選手は、リスクチャレンジを見せていた。面白いことに、一人二人でもそういった動きをすると、相手チームは確実に混乱をきたす。そういった風景は日本のユースにも、もちろんある。
ただ、そういった目をみはる動きが、1次リーグ全敗のチームから出てたりするので、複雑なのだが、、、
僕が足を運ぶ試合はしょせん数が限られている。それでも、日本のユースのレベルは確実にあがっている、と僕は思っている。
ただ、それが本当に「育成」にとっていいことなのか? 世界との距離が近づいているのか、遠のいているのか?
そこがどうも正直、僕にはわからない。


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