平山相太を平山相太として評価したい

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「サッカーを仕事だと、それで生活していくんだという気持ちが持てるようになった」
2009年11月3日 サンケイスポーツの平山相太のコメント

ナビスコ杯決勝、国立競技場でMVPが発表されるとき、僕の頭に浮かんだのは平山だった。今日の戦いに、はたしてMVPが必要なのか、と思う疑問の方が強かったが、瞬間的に浮かんだのは平山の名前だった。米本が選ばれると、そりゃそうだ、と思い直したが、平山の貢献度は期待に反して大きかった。 平山のプレーの質は90分を通して高かった。平山は、チームの中で、自分のできることを、実直に、的確に行っていた。
エアポケットのようなスペースにボールを置いた米本のミドルにつながるプレイや、2点目の鈴木に追いつこうとする長い走りが印象に残るが、それ以外の守備の貢献度も高かった。この場面でそこを抑えてくれると、チームは助かるだろうな、という動きをしていた。
それは今野にしても、梶山にしても、同じだった。全員がチームのために効果的な動きをする。米本の1点が入ってからチームに迷いがなくなった。攻められながらも、自信をもって、チームプレイを実行できた点で、FC東京は優勝にふさわさしいチームだった。
誰も突出はしていなかった。本来フィールドでは、必要以上に目立つ平山でさえ、あくまでチームの一員として輝いていた。
話はそれるが、僕の相方は平山が嫌いだ。どのくらい嫌いか、と言うと、僕が平山の名前を出すと、その場の空気が悪くなり、僕自身に危険が迫るぐらいの感じだ。
そういうわけで、僕は、安全第一で、平山の名前は家では出さないようにしている。
人が嫌いになると、その印象を変えることは難しい。特に僕の家における、平山の評価は回復が不可能な状況だ。
ナビスコが終わって考えたのは、平山はずっと何かしらレッテルが貼られてきたプレイヤーだった。まずは「怪物」とか「大型フォワード」というレッテルが、平山をひときわ目立つ存在に押し上げた。
その後は、Jリーグや海外からのオファーも断って、筑波大学に進むという「賢い選択をする大物」になる。そして、オランダに飛んだ直後は、チーム最多得点を記録し、いよいよ大型フォワードの覚醒を予感させた。
その後、東京に戻ってからは、バッシングといじられキャラの坂を勢いよく下っていくが、そこでも、与えられたレッテルに、うまくはまりきれずに、中途半端な印象の方が際立っていた。
思えば、平山はずっと目立ち、そしてズレていたのだと思う。いつも周りの期待からズレ、チームの中でも、一人特別な存在であり続けた。平山のよいプレイは、ときどきあったのだが、レッテルから比べた時の「がっかり」させる印象の方が際立ってしまっていた。
豪快なゴールを期待しながら、がっかりさせる、その連続が積み重なっていった。
僕の相方が平山を嫌う理由は山のようにありそうだが、あるべき平山像との大きなズレも、その一因だったことだろう。
平山に対する周囲の期待が自然消滅し、レッテルが不要になりはじめた最近になって、平山は変わりはじめた。一説には巨人の小笠原のテレビ番組がきっかけだ、ということだが、やはり平山にとって何よりもタイミングが重要だったように思う。
ナビスコの決勝で見た平山は、チームの一員だった。何よりもそのことが印象的だった。
梶山が効果的な戻りを見せたのと同じように、平山も守備のために走り、今野がチームに落ちつきを与えたように、平山もチームのリズムの中にいた。そして、ひとたびチャンスになれば、鈴木の足に追いつこうと長い距離を走りぬけた。
一対一のドリブルが中途半端に終わるのは相変わらずだが、それはもう「大きなズレ」には見えなかった。

「長い90分間でした。相手の攻撃力がすごいので、前線から守備をして、そこからいい形で攻撃をすることができればと思っていました。(前半は)攻め急いでしまっていたので、もう少し時間を作れればと思っていた。(鈴木)達也くんはスピードがあるので、早くそのラインに追いつけるようにと走りました。」
ナビスコ決勝後の平山のコメント

平山は平山だった。怪物でもなんでもなく、そして彼はよいプレイをした。
僕は、彼が代表に選出されるとか、海外に呼ばれるとか、森本と比べて反転のスピードがどうとか、そういうことはよくわからない。
ただ、平山にがっかりしたままでいるとしたら、一旦その色眼鏡をはずして、もう一度、一から彼を見なおしてみてもよいのではないか、とそう思う。
今この時点の平山相太は、平山相太として、間違いなく、よいプレイをしている。
今回、平山がMVPを受賞しなかったのは、よかっただろうと思っている。また、「復活」とか「森本との代表争い」とか、レッテルが貼られるよりもよかった。
平山はまだ満足はしていない。これからも努力を積み重ねて、前に進む道には乗っている。突出したプレイヤーになるよりも、長く続くプレイヤーになる可能性が見えてきたように思う。
僕はナビスコ決勝の翌朝、相方の前で慎重に平山の名前を出してみた。「昨日の国立で、平山がよかったよ」とさりげなく言ってみた。
しかし、そのささやかな試みは、見事に失敗した。彼女から激しい攻撃を受け、僕はよけるのが精いっぱいだった。
少なくとも、僕の家では、まだしばらくは、その名前を言えない。まだ引き続き、平山には努力が必要だ、ということらしい。


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