ロッベンのドリブルをマネしよう

この記事は約4分で読めます。

「唯一の悔いは、ロッベンと一緒のチームでプレイできなかったことだ」オランダ代表監督 ファンバステン 雑誌スポルティーバ2005年3月号(集英社)より

元ヴェルディの北澤が、「今回のワールドカップではドリブルをする選手に期待したい」と言っていた。なぜなら、ドリブルは子供たちにとって魅力的で、マネをしたくなるからだ、と。
サッカーの喜びは華麗なドリブルにある。一人抜いて、スピードに乗ってクッと曲がって、フェイントをかけてもう1人抜く。そこにあるスペースをスピードに乗って攻めあがって、最後のディフェンダーと1対1の勝負になる。少しスピードを遅くして、向かい合うようになったところで、勝負をしかける。最後までパスをせずに、ゴールを決める。
残念ながら、現代サッカーでそういう場面は少ない。フォワードでさえ守備をしないと怒られるような時代だ。あらゆるところで守備が迫ってくる。複数人がボールを持った人間をすばやく囲むような守備をするから、ドリブルをしても、すぐにサイドに追い込まれたり、パスの出し場所を失ったり、ボールを奪われて逆にカウンターになってしまうことも多い。
そういうわけで、ドリブラーは、やや絶滅種に近い。監督もボールを持ったままで離さない選手を嫌う傾向がある。
オランダのサイドプレイヤー、アリエンロッベンは、そんな絶滅種の1人だ。ドリブルがとにかく多いが、不思議な格好でドリブルをする。手を横に中途半端に伸ばした感じは、ペンギンがペタペタと歩くようでもある。
ロッベンのドリブルは、なんだか他のドリブラーとは違うように見える。僕にはよくわからないから、サッカー少年に聞いてみた。
「ねえ、ロッベンのドリブルはなんか普通と違うの?」
「足の使い方」
「それって具体的にどういうこと?」
「細かくボールに触りながら進む。左足が一歩出るたびに、細かくボールに触りながら進んでる」
「それってディフェンダーにとってはどうなの?」
「ああ、嫌だね。細かくドリブルされるとなかなか奪いにいけないし、ディフェンダーが足を出すと、すぐにボールをコントロールされて逃げられちゃう」
「ふーん」
「それとタイミング」
「何それって具体的にどういうこと?」
「例えば縦に行く振りして、クイッと切れ込んだりとか」
「ロッベンのドリブルって、ワザと危険な場所を選んで突っ込んでいるように見えるけど、あれって大丈夫なの?」
「難しい場所の方が、そこを突破したときに一気にいけるんだよ。それにゴールに向かってコース取りができる」
ロッベンのドリブルは、いうなればリスクにチャレンジするドリブルだ。普通は、ボールを取られないように安全なコースにそれていく。ディフェンダーがしっかりつくと、サイドに追い込まれて、時間もかかり、行き場を失ってしまう。「オレのボールを取るなー」っというドリブルになってしまう。これはチームプレイとはいえない。
そうではなくて、ある時は外ではなく内側に切れ込んで突破をはかる。ある時は、まるでディフェンダーに迫っていくようにして突破をはかる。失敗も多いが、うまくはまると一気にゴールにいける。こちらは、チームの局面打開になる。
ある試合のあとロッベンが「今日は気持ちよくゲームができた。何も考えずにプレイできた」と言っていておどろいた。
そういうものかもしれない。
ゴールへの意識が沸騰しているところにパスが来る。自然に体がスピードに乗って、一番危険で一番ゴールに近いコースになだれ込んでいく。
オランダのPSVでプレイしていたロッベンには、レアルマドリードとマンチェスターユナイテッドとチェルシーから声がかかった。レアルは彼のお父さんが断った。「新人選手が行くべきクラブじゃない」と。正しい判断だ。
マンチェスターは、少し安めに提示して断られた。その代わり、もう1人の絶滅種クリスティアーノロナウドを獲得した。
結局、オランダのペンギンは、最後にロシアの石油王が獲得し、チェルシーでプレイしている。好不調の波が激しいが、はまるとすごい。
まだ22歳と若いが、癌の摘出手術を経験し、サッカーのことさえ考えられない時期も過ごした。一時は、失敗したとき大げさに倒れるので「ダイバー」と皮肉られたこともある。今は、そんな声も少なくなった。
オランダ代表監督のファンバステンも彼をべた褒めしている。子供だけではない。結局大人になっても、ドリブラーは魅力的なのだ。

「ロッベンがルーニーに勝っていることは明白だ。それはプレイを見てもピッチ外の言動でもわかるじゃないか。オランダは、若いが成熟した宝石のような選手を得たのだ」
「(私の選手生活で)唯一の悔いは、ロッベンと一緒のチームでプレイできなかったことだ。あんなにすばらしいストライカーが味方にいたら楽しくプレイできたのに」

「ねえ、ロッベンのドリブルってマネできるの?」
「できるよ、こんな感じ」
そういって、少年はペンギンのように手を広げて、細かく刻みながら進んで見せた。
なるほどね。
ロッベンは今回のワールドカップで爆発しそうな気がする。彼が大活躍して、子供たちがみんなペンギンのようなドリブルをしはじめたら・・・ペタペタペタペタ、クイッ。ペタペタペタペタクイッ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました