女子サッカー 負けず嫌いの彼女たちへ

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子供の頃、私は負けるのがすごく嫌で、何度もゲームの途中で辞めようと思ったことがある。きっとゲームが終わる前に、辞めちゃえば負けにならなくて済むと思ったのでしょうミアハム EUROSPORT Interview 1996より

3月7日、春の暖かい国立競技場で、女子代表のサッカーを見ていた。ワールドカップの出場権を争う大事なプレーオフだ。
見た目には、もう少し入っているように見えたが観客は1万人。
いろいろなタイプの観客が僕の周りに座っていた。男性数人のサッカー好きのグループ、男女のカップル、お母さんやコーチがサッカー少女を連れてきていたし、学校の制服で訪れた少女たちもいた。
僕のように一人で観戦する男も何人かいて、スタジアムに仕事カバンを持って座る僕が、周りのお母さんたちから、どんなふうに見えたのか少し心配だ。
女子サッカーを見るのは純粋に楽しい。サッカーの楽しさの純度が高い、といえばいいのか、ゴールが近づいたときのワクワク感は、しばらく忘れていた遠い昔の記憶のような感じがする。うまくいえないが、少し違う国に降りてサッカーを見ているような気分だ。
それは、テレビでクラシコを見るのとも違うし(メッシにはしびれました)、三ツ沢で横浜ダービーを見るのとも違う(震える戦いだった)、少年のサッカーの試合を見るのとも確実に違う(子供以上に興奮します)。
一つだけ言えるのは、結局サッカーの楽しみは、地域や年代、選手のレベルや、イベントの大きさに関係なくあるのだと実感する。
アメリカに出張に行くと驚くのだが、女の人、特に母親と話すと、数名は自分自身がサッカーをやっているのだ、という話になる。
シアトルに3週間ぐらいの出張で、3人ぐらいの女性から、サッカーをやっているのよ、と言われた思い出がある。
アメリカの女子サッカープレイヤーの登録人数は800万人を超えているというし、あるスポーツ店のサッカーグッズの売上は、その4割が実に女性向けの商品だ、という話も聞いた。
身体のしっかりした小母さんが「私はゴリよ(ゴールキーパーのこと)」と言ったり、俊輔と同じ手に包帯を巻いて「週末サッカーで手をついてしまって」というお姉さまもいる。その怪我をしたお姉さまのお母様さえサッカーをやっている、と言われて驚く次第だ。
仕事場でも力強い彼女たちだから、きっとフィールドでも激しい言葉を叫んでいるに違いない。
日本でも女子サッカーの人口は増えているのだろうか。
僕の街の子供たちのクラブチームでも、今は数人の女の子が混じってサッカーをやっている。トラップをミスしてがっかりしていたり、ボールを男の子に奪われて、悔しがっていたりする。
「うざいよあいつ。それは私のボールだよ」と言っていたりする。
いつのころからか、電車の中の女の子たちの言葉使いが、男の子の乱暴な口調に似てきた。大人たちは、そんな姿に目くじらを立てているが、僕は実はそういう女の子の口調が嫌いではない(フェチではありません、念のため)。
アメリカでも日本でも、僕の勝手な印象だが、男性がちょっと前の女性に近くなっていて、女性の方がきっぱりさっぱり、男らしい感じがする。少なくとも僕の周辺のIT業界はそんな感じの女性が多い。
仕事場でお客に怒られて悔し泣きをしている女性の営業がいて、プレゼンに失敗して唇を噛んでいるエンジニアがいて、だらしない上の連中をダーツの的にしたいと言っている管理職の女の子がいる。
そして、彼女たちが悔しそうな顔をしたり、強気のセリフを吐く姿を見るのが、僕は嫌いではない(やっぱり少しフェチかも)。
いや、そうではなくサッカーの話だ。
今回、プレーオフの女子日本代表を見て、改めて澤穂希の存在感に驚いた。普段のボール回しの中では、むしろ他の選手が目立つのだが、いざチームがゴールに向かってスピードアップしたとき、澤穂希の存在感が際立って大きくなる。
澤穂希もミアハムも、5歳の頃から兄たちにまじってサッカーをはじめた。ボールを奪う喜び、奪われる悔しさ、ゴールの喜びと、負けたときの憤りを、その頃から肌で感じて育った。
年上の男の子たちに負けまいとすることが、自然なことだったのだろう。
(余計なことだが、澤穂希を輝きの少ない北京世代に加えたくなる)
3月7日のホームを2-0で制したとはいえ、肝を冷やす場面は2回以上あった。ボールポゼッションや戦術では、日本が上回ったとはいえ、一瞬のゴールへの執念は、相手の方が上に見えた。
高地メキシコで、ホームで元気になった相手と戦うのは楽ではないと思っていたが、案の定、敵地での戦いは簡単ではなかったようだ。
試合自体は落としたものの、2試合の合計で1点上回ったようだ。
それでも、女子サッカー日本代表は、メキシコでのアウェイの戦いを終えて、5大会連続でワールドカップ出場権を勝ち取った。
僕はサッカーをする彼女たちがとても好きだ。負けず嫌いな彼女たちの表情を、ずっと応援していたい。
まして、それが世界を相手にしての戦いならなおさらだ。

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