森山佳郎 広島ユース監督の言葉

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中学でバスケ部に入って一日で後悔しました。なんてオレはバカなんだろう。なんでサッカー部に入らなかったのだろうと広島ユース監督 森山佳郎(よしろう)の言葉

森山の話が面白かった。
森山が誰か、というと、サンフレッチェ広島でプレイして、その後広島のユースの監督になった森山佳郎(よしろう)のことだ。
現役時代は、右のディフェンスで広島のステージ優勝にも貢献した。ファルカン監督の時代の日本代表にも選出されている。
プロのサッカー選手としては九年間プレイし、広島のあとはフリューゲルス、ジュビロ、ベルマーレと移籍を重ねていく。
広島ユースの監督になってからは、クラブユースなど数々の大会で優勝した。そして、数多くのユース選手をJリーガーに育て上げている。
ユース監督を測る尺度は難しいが、戦績と育成の両方で、ガンバ大阪と並んで、もっとも実績を作っているユース監督の一人だろう。
その森山佳郎のセミナーを先週の日曜日に聞きに行った。雑誌「サッカークリニック」が主催するセミナーで、お題は「プロになる選手をいかに育てるか」みたいなものだった。
森山のその話を、ここに全部載せたいぐらいなのだが、そうもいかない。
どの話に絞ろうか、と思って数日たって、なぜか繰り返し浮かぶのは、冒頭のエピソード、森山佳郎が中学のときの体験だ。
中学生の森山少年はサッカー部を選ばない。彼は部活を選ぶときバスケットボール部に入部することに決める。
「サッカーはもういいや」と森山少年は、そう思っていたという。
小学校時代のサッカー部があまりにスパルタで、コーチにしかられてばかりいるうちに、うんざりしてしまったのが大きな原因だったという。
中学生だった森山はバスケ部に入って一日目で後悔をした。
体育館から校庭を見ていると、そこではサッカー部が活動をしている。それを見て森山は「しまった」と思ったという。
「なんでオレはサッカー部に入らなかったのだろう」
それから一年間は部活の変更がきかない。バスケを続けながら、サッカーへの思いはつのっていく。
「結局わかったことは、自分にはサッカーしかないな、ということだった」
そして二年生でようやくサッカー部に移るが、その後もプロに近づく気配は彼の経歴に見えない。
森山は、高校や大学でもこれといった目だった活躍をしていないようだ。高校も無名で、サッカーを知らない教師が監督をしているような高校だったという。
大学は一浪して筑波に進むが、そこでも四年生になるまではいわゆるAチームではプレイしていない。
それでもサッカーの神様は森山を救い上げる。
広島のスカウトはその無名の男を雇い、そしてファルカンが森山を日本代表に選出した。さらに現役を引退したあと、広島がユースの監督として森山を雇う。ユースの監督としても見事に日本有数の実績をあげる。
考えてみれば、森山を雇う広島の眼力もすごいものだ。
Jのユースは厳しい。
プロを目指して高校の三年間を過ごすが、多くはプロになれない。成功例に数えられる広島ユースにいても、誰もプロに上がれない年もある。広島でも過去12年間で、平均すれば年1.75人しかプロに上がっていない。それでもユースの実績としては十分高い数字だ。
プロチームの下部組織にいながら、自分がプロに上がれない確率の高さを、コーチも選手も知っている。それを知りながら、彼らはサッカーに打ち込む。
考えてみれば過酷で不思議な世界だ。
森山の話を聞いても、何かがはっきりわかったわけではない。振り返っても、明るい材料は少なかったようにさえ思える。
子供たちを教えるということが、いかに難しいかは痛いほどわかった。
プロになっても、ほとんどの選手が20歳までに首を切られていく現実もわかった。森山がプロに送り出した選手の中にも、苦しいプロの現実に直面している選手は少なくない。
それでも、森山は育成の現場に立ち、子供たちと本気で向き合う。
確かに確率は少ない。夢がかなわないのは苦しい。それでも可能性はゼロではない。
森山には根拠がある。
プロのサッカー選手になんかなれっこない。自分には価値が無いと思って苦しんだことが、結局は自分の価値になっている。そのことを、彼自身が証明している。
運のあるような無いような森山の人生は、子供たちを育てるために、神様が用意した道なのかもしれない。
そして、森山の原点は、自分にはサッカーしかないと実感した中学時代だと僕には思えた。
月並みだが、結局は苦しんだとき、サッカーがどうしよもなく好きだ、という原点に戻ることができた。サッカーから離れた中学時代の一年間が、逆に森山のサッカーの根っこを作った。
「サッカーを終えた後も人生はある。だから僕はサッカーバカにはなるな、と子供たちには言っているんです」
そういった後で、しかし森山は自分の言葉に首をかしげるようにぶつぶつと独り言のように喋る。
「そういう自分が一番 サッカーバカなんですけどね・・・」

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