岡田武史 負けたけど勝ち得た次につながるもの

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「Enjoyの究極はどういうことかというと、自分の責任でリスクを冒すことなんです」
岡田武史氏が語る日本代表監督の仕事とは 2009年12月14日 早稲田大学の講演から

パラグアイに負けた。悔しかった。体の血の90%ぐらいは、悔しさでいっぱいだ。
それでも、終わった後の充実感が、そこに混じっている。少し時間がたった今は、じわじわと「充実感」の水位が自分の中で上がっている。
PKをはずした駒野は気がかりだが、このワールドカップを通じて、日本の弱点=サイドバックを支えた男を、今まで以上に好きになった。
僕にできることは、駒野がJリーグのフィールドに立つ姿を、スタジアムに見に行くことだ。
岡田監督が早稲田大学で行った講演がウェブに上がっていて、話題になっている。
ワールドカップの開催前と今では、読んだ印象ががらっと変わってしまう。その節操のなさは笑い飛ばすとして、この文章は永久保存だ。その中に印象的な一行があった。

「Enjoyの究極はどういうことかというと、自分の責任でリスクを冒すことなんです」

不思議な響きの一行だ。
「Enjoy」という脳天気な響きと、「責任」と「リスク」という笑顔を封印しそうな言葉が、こうしてコンパクトに同居している。
しかし、パラグアイ戦を終えた今、おぼろげに実感できる。
この南アフリカでの戦いは、Enjoyの究極に少し近づいた戦いだったように思う。
悔しいし、負けたのは事実だ。90分で勝ちきる力はなかった。
中田英寿に、日本はもっとできたはずだ、と言われれば、そうだとも思う。
それにも関らず、何かを「勝ち得た」という実感がある。その勝ち得たものは、「自信」になり、さらに上の高みへと進みたい、という「欲」につながっている。
今回の代表が勝ち得たものは、求めていた「日本のサッカースタイル」というレベルのものではない。その部分は、今後も試行錯誤を続けることになるだろう。
しかし、「チームの結束力」「走力」そして「情報」と「コンディション」、そういった基盤に近いものは、確実に手にした実感がある。
僕が知りえる情報は少ないが、今回の戦いを通じて、日本代表を「情報面」で支えたスカウト陣、「コンディション」をここまで見事に整えたスタッフの力は、大きかったはずだ。
この基盤は、日本サッカーが積み上げてきた一つの輝かしい成果ではないか?
もしそうなら、素晴らしいサッカー・インフラを持つ国になったことを、誇らしく思う。
そして、「責任」と「リスクを冒す」という姿勢。
ミスを犯さないことは大切なことだし、ミスを犯さないように心配したり注意することは得意だ。けれども、ミスを恐れて、攻撃の機会を失っていては、勝利はない。言葉にすれば当り前のことだが、日本のサッカーや、指導の現場に、注入することが難しい要素だった。

 1つは「Enjoy」と言っています。「楽しむ」ということなのですが、英語で言っているのは日本語で「楽しむ」と言っても何かピンとこないからです。
日本代表選手になるくらいの奴は子どものころ、「俺にボールよこせ」「俺にボールよこせ」とお山の大将です。プロだろうが日本代表だろうがW杯だろうが、そのサッカーを始めた時の喜びやボールを触る楽しみを絶対忘れてはいけないということです。
大人になってくると、「今、ちょっとボールいらない」とだんだんなってきます。なぜか? 「プレッシャーが強いし、ミスをしそうだ」ということで守りに入っているからです。そうしてうまくなった選手を今まで見たことありません。相手を恐れておどおどプレーしたり、ミスを恐れて腰の引けたプレーをしたりする姿は絶対見たくない。「みんながピッチの上で目を輝かせてプレーする姿を見たい」ということです。

組織的な守備を継続しながら、それでも前に進もうとする選手たちの姿、それを後押しする岡田監督の積極的な采配や、大きく手を回す姿、そういった姿は、日本サッカー全体を、失敗を恐れずに進んでいく、そんな方向に進めてくれるだろう。
何よりも、戦いを終えた選手たちの表情がどれも素晴らしい。
その選手たちの、「恐れずに世界と戦う姿勢」は、次の世代に、確実に伝搬していくだろう。
思えば、日本サッカーは、ドーハの悲劇を筆頭に、負けた経験、失敗の経験から、少しづつ進化してきた。しかし、今回の大会から、勝ち得たものを糧にして、さらに前に進んでいくことができる気がする。
「日本代表」=その存在は大きい。
改めてそのことを実感した。

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