ワールドカップ 影の主役はモウリーニョ?

この記事は約5分で読めます。

「(チャンピオンズリーグ)は、ワールドカップよりも重要だ。なぜなら、ベストプレーヤーたちを買えない代表チームよりも、チャンピオンズリーグに出場するチームの方がずっとレベルが高いからだ」
ジョゼ・モウリーニョのワールドカップに対するコメント 2010年5月19日

さて、ワールドカップも1次リーグの半分以上を消化した。やがて終わってしまう日が来るのが、今から悲しい。僕は、尊敬する職業=サッカー監督なので、今回もサッカー監督に注目しつつゲームを見ている。
一つの傾向として、「強豪国 x 定番監督」の組み合わせが苦戦している印象だ。
フランスのドメネクは、あんなもんだろうと思うが、イングランドのカペッロとイタリアのリッピの二引き分けには正直驚いた。スペインのデルボスケも苦しそうだ。
がっかりする場面もあった。スペイン対スイスの試合は、1次リーグの中で注目のゲームだったが、スイスは、メッシのいないバルサ(スペイン代表)に対して、「なんだよモウリーニョじゃん」という戦術を選択した。
カメルーン戦の日本の戦い、アルゼンチン戦の韓国の前半の戦い、なども同様に、いわゆるモウリーニョ的な影がちらついた戦い方だった。
モウリーニョの言っていることは確かに正しい。
今や最高のサッカーはワールドカップにはない。直前のチャンピオンズリーグの戦術が、ワールドカップにコピーされる。
特に今回の直前のチャンピオンズリーグで、バルサを破ったモウリーニョの戦術は、印象に強く残った。
4年前ドイツのワールドカップで、リッピが「中堅の守備が勝利の要」と言っていたが、4年たって、守備のブロックは、さらに後ろに下がってしまった。
ワールドカップ全体がこのまま守備的な大会になれば、「影の主役はモウリーニョ」みたいな見出しで総括されるのだろうか?
守備ブロックを下げて守り切る、と言葉にすれば1行だが、それは簡単なことなのだろうか?
かつてヒディングも、チェルシー時代にバルサ相手に同じ戦術をとったが、失敗している。今大会を見ても、スイスはかろうじてスペインに勝てたが、アルゼンチン相手に韓国は失敗した。それはきっと言うほど簡単ではないはずだし、大会を通じて意味のあるものにはならないだろう(韓国は前半であきらめて、結果はともかく、すごくよくなった)。
第一、モウリーニョと、モウリーニョ的なものは違う(ここは長くなるので割愛)。
いずれにしろ、サッカーの見本市であるワールドカップが、超守備的な空気が支配するのは、できれば避けたい。
今回のワールドカップは少し楽しみ方を変えることにしよう。確かにチャンピオンズリーグからはレベルが落ちるだろうが、そこから光るものを見つけたい。
「強豪国 x 定番監督」を苦しめる監督、そして、えせモウリーニョ的な展開から抜け出す監督を探してみたい。
僕がこのワールドカップで、気になる監督は、アメリカ、チリ、ガーナの3チームの監督たちだ。彼らは、組織的なチームを作り上げていて、しかも、リスクを冒して前に向かうポテンシャルが感じられる。
チリのピエルサはすでに有名だ。オシムが倒れた直後の岡田監督との初戦は、見事な戦術が印象に残った。今回のチリ代表は、出場チームの中でもかなりいい出来に仕上がっている。
アメリカは、いよいよ強さが本物になってきた。もともと選手の戦術理解の質が高いチームだが、バランスのよい、モーチベーションの高いチームが出来上がっている。2点リードされた後のセルビア戦の後半の交代策など、ボブ・ブラッドリー監督の手腕も鋭い。
そしてガーナ。ガーナの監督はセルビア人のミロバン・ライエバツだ。実績こそ少ないが、どうも名監督の匂いがする。エッシェンという絶対的な主役を失ったが、むしろそこからチームをまとめあげて、結束は固くなった印象がある。
ガーナは今、手負いのライオンとして、納得ずくでチーム全体が守備に徹しているが、成長するポテンシャルがもっとも強く感じられるチームだ。
現在の勝ち点は、PKに助けられている状況だが、今後彼らが躍動することに期待したい。(まずはドイツ対ガーナ)
この3チームの監督が、うまく決勝リーグに残り、どこかのチームが、ベスト4まで進んでくれた時、おそらく「今大会、影の主役はモウリーニョ」という見出しは、意味がなくなっているだろう。
そして、日本。
初戦のカメルーン戦は、「土壇場リアリスト」がぎりぎりで間に合った感じだ。
「岡田監督 あなたがリアリストに戻るのなら」
https://www.ouchi.com/archives/2010/02/post_177.html
サッカーの良し悪しはともかく、ジョホールバル以来の見事な采配を見せてくれた。カメルーン戦は、まさに「モウリーニョを少し意識したでしょ?」と肘でつつきたくなる、本当にぎりぎりの大胆な方針転換だった。
(土壇場にならないとダメだから面倒くさい人だ)
そしてオランダ戦。
偉そうに言って申し訳ないが、岡田監督は「モウリーニョ的」な超守備的なサッカーから、一歩前に踏み出した、と僕は感じた。
勝負には負けたが、戦う姿勢と、監督采配に関して、ほぼベストな選択を見せた。サイドを入れ替える芸当、トゥーリオを上げる明確な意志など、見事としか言いようがない。
中村俊輔投入に異論が多いが、あの場面で、チームに対するメッセージも含めよい交代だったと思う。ここで明らかになったことが、次につながるはずだ。
デンマーク戦は、ボールを回してくれたオランダより、やりにくい戦いになる。懐の深い相手の、長く速いパスに、受け身になってラインが下がるのが、今までの日本代表だが、きっと岡田監督は、日本がゲームの主導権を握る戦いを挑むはずだ。
日本が決勝リーグに進めば、岡田監督と日本代表は「強豪国 x 定番監督」を、相当苦しめる位置につく。成長したチームは、さらによい仕上がりになるはずだ。その時、「土壇場リアリスト」からは、本当の意味で脱却しているに違いない。
ピエルサ、ブラッドリー、ライエバツ、そして日本の岡田監督。
「強豪国 x 定番監督」に挑む監督たちが、チームを成長させる展開を楽しみたい。


【関連記事】
ユーロ2008 ジャック・レモン対チャールトン・ヘストン
アブラモビッチの願いを砕いたイニエスタのゴール

コメント

タイトルとURLをコピーしました