オシムと日本代表 リードしたとき有利なときの戦い方

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勝ちはしたが「日本化」するというところまでは、まだできていない。(中略)結論を急がないでほしい。まだ時間はある。私としては、結論をできるだけ先に引き延ばそうと思っている。オシム監督 アジアカップ オーストラリア戦後のコメント 2007年7月21日

オーストラリア戦が終わった。PK戦とはいえ、ひとまず勝った。
終わってみれば、この結果は日本にとってベストかもしれない、とそう思っている。
「10人のオーストラリアにもっと簡単に勝てた。何を甘えたことを言っている」と思われるだろうが、恐らく次の真剣勝負、ワールドカップ予選を考えれば、この勝ち方が一番よかったように思う。
日本のメディアや僕らは安易だ。アジアカップで綺麗に勝ったら、もうそれで、「ヒディングのいないオーストラリアなんてたいしたことない」という気分が生まれてしまう。もしここで負けていれば「オシムでアジアは勝てない」と悲観していただろう。
しかし今回は、楽天的にも悲観的にもなれない結果だった。次の真剣勝負=ワールドカップ予選を考えると、そのどちらでもない感じがよかったかも、と思っている。

記者>フィジカルで上回る相手に勝利したことで、就任以来のテーマである「日本化」の手ごたえは感じたか?

オシム>勝ちはしたが「日本化」するというところまでは、まだできていない。怒らないでほしいのだが、よく日本人のジャーナリストからそういう質問を受けるが、意図が分かりかねることがある。オシムが監督で勝った方がいいのか、それともオシムのせいで負けた方がいいのか。つまり、日本を応援する立場で記事を書いているかどうか、はっきりしてほしい。結論を急がないでほしい。まだ時間はある。私としては、結論をできるだけ先に引き延ばそうと思っている。つまり、皆さん(ジャーナリスト)と反対のことをしようとしているのだ。

日本のサッカーを日本化するとオシムは言った。しかし、それはオシム先生のお手並み拝見、という話ではもちろんない。
サッカーの日本化は、日本の長所を生かしたサッカーをすることだが、日本の弱みを改善する、というタスクもその裏で必要なはずだ。
日本の決定的な弱みはなんだろう。
フィジカル、決定力不足、開始15分の乱れ、といろいろあるが、僕がもっとも改善すべきと思っている部分は、試合の局面でのチームの意思統一だと思っている。
もう少し限定すれば「リードしたときの戦い方」じゃないかと僕は思っている。
統計的に数えた話ではないのだが、日本のサッカーの悲劇は、たいてい日本がリードしたところからはじまっている。リードしてたのが逆転されたから悲劇になるわけだが、それにしてもこの10年余で見てきたトラウマは大きい。
まずドーハの悲劇。ロスタイムで失ったものの大きさは、今さら語る必要もないだろう。ラモスは試合中、ライン際まできて、「北澤を入れてくれ」と叫んでいた。前線をかき回して、相手の攻撃を止める力が欲しかったのだろう。しかしオフトが投入したのは武田。日本は残りわずかな時間に、ボールをキープできず、勝てる試合を逃した。
次に思い出すのは加茂監督で苦しんだ98年ワールドカップに向けてのアジア最終予選、国立での韓国戦だろう。僕のサッカー観戦史上、もっとも美しいゴールの一つに数えられる、山口のループシュートで日本はいったんリードした。しかし、ロペスに代えて秋田を投入し、カズのワントップになったのをきっかけに、韓国代表は別の生き物のように生き返り、そして日本代表は自分たちから崩れていった。
そしてドイツのワールドカップ。言うまでもなくこの前のオーストラリア戦だ。ジーコは苦しい場面で小野を投入した。中盤でボールを落ち着かせて、日本ペースに持っていきたい、と思ったのだろうか? しかし、その後に僕らが見たのは悲惨な結果だった。
あの場面では、むしろ前線の守備を強化して、オーストラリアが自由にロングボールを上げられないようにすべきだった、と大嫌いなトルシエが最近の著書で書いている。

そこでジーコは、疲労の激しい柳沢に代えて小野を投入した。中盤を厚くしてボールをキープし、ゲームを落ち着かせようとしたのだろう。だがこの交代で、前線は高原1枚になってしまった。ひとりで相手の回すボールを追いかけるのは容易ではない。彼もまた疲れていた。このためオーストラリアのロングボール攻撃に弾みがつき、日本のディフェンスブロックはさらに後退せざるを得なくなった。フィリップ・トルシエ 「オシムジャパンよ!」より

この前のU-20のチェコとの戦いも辛いものだった。
日本は2-0でリードする。そこまではほぼ完璧な道路を走っていたように見えた。しかし、前線で走り回っていた河原を交代で下げた途端、日本はチェコのロングボールの対処に苦しみ、そしてあっというまに2点をPKで失ってしまう。
審判の判定のせいだという意見もあれば、前線で身体を張っていた河原を残すべきだった、という意見もある。
リードした後に日本は崩れる。有利になったときにうまく闘えない。そういうトラウマを抱えて、日本サッカー界はここまで来ている。
ビジネスの現場でも、調子がよいと思った後に崩れる姿は何度も見ている。
「過去の成功体験」が、日本をおかしくしてしまった、という論調が最近よく聞こえる。成功した時、有利なときには、チームとして正しい行動が選択しにくい、そこはサッカーもビジネスも同じかもしれない。
下から上を目指して進むときは、割合にタスクがはっきりしている。明確なタスクが与えられれば、この国のチームは強い。
しかし、その逆に頂上や峠に来て、いったん成功を手にした後、どうチームが進むかについて、チームの意思はバラバラになりがちだ。
ここに上げた日本サッカーの悲劇は、いずれも監督の采配が間違っていたのだろうか?
僕には、もう少し根が深いように思える。
有利な局面で、チームや選手の判断が成熟していないから、監督の交代で更にバラバラになっていく、というのが真相ではないだろうか。
アジアカップの残りの試合、目前のトロフィー以上に、次につながる戦いをしてもらいたい。もし、日本代表が有利な状況、リードした状況になったら、その時こそ、オシムとそのチームがどんな戦い方をするか、僕はそこに注目したい。

コメント

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  9. topo-gigio より:

    はじめまして。いつも更新を楽しみにおもしろく読ませてもらっています。
    今回の話はとても深いものを感じたので、その感動のままにコメントしています。
    この問題はサッカーに留まらない日本全体の特徴を表しているように感じました。

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