なでしこジャパン サッカーボールを蹴る女子が格好いい

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メダルという結果は残せなかったが、ものすごいものが心に残った。それは何にもかえられないと思う
なでしこジャパン 北京でドイツに敗れた後の池田浩美選手のコメント

今から5年前、東京都の小6の選抜チームを見る機会があった。東京都で選び抜かれた子どもたちが集まり、ヴェルディのジュニアユースの選手も何人かいて、迫力のあるチームだった。彼らはその年、埼玉で行われた全国大会で優勝している。
「一人女の子がいる」
初日の紅白戦で、そんな話が観客席の親たちの間を飛び交い、ちょっとざわついた。この選び抜かれた小学生の中に女の子が一人だけ混じっている、というのだ。
「きっとあの子よ」
そういって誰かが指さしたのは、髪を長くして、線の細い可愛い顔をした子だった。
ああ、多分その子だね、と思っていると、目の前の試合で別の子供がゴールを決める。
背の低い髪の短い子が、スピードのあるドリブルでゴールに向かい、ディフェンスを深いフェイントで切りさいて、豪快なゴールを決めた。
ゴールに向かう気迫がいい、とかなんとか、そんな感じで僕は見ていたと思う。
「え?あの子なの?」と少し離れた席から声がもれる。「今のゴールを決めた子が、その女の子だって」
「え!?」というビックリマークが、観客席をいっぱいにする。
髪をショートにした女子選手(女の子だとわかると「ショート」になる)は、その東京選抜チームでフォワードの重要な一角を占め続け、ゴールを重ねていった。その後、彼女は日テレべレーザの下部組織(メニーナ)に入り、今も時々U-17あたりの女子日本代表に名前を見かける。
(ちなみに、はじめに女の子だと決めつけられた美形の男の子も、クラブユースでサッカーを続けている)
極めて個人的な体験だが、そんなことがきっかけに、女子サッカーに興味を持ち始めた。
それ以前は、「女子サッカー」という言葉を聞いでも、「いやそれはないでしょう」と思っていた。実際にテレビで女子代表を見ると、アメリカやドイツとはフィジカルの差が大きく、男子サッカーではありえないミスが、簡単に得点につながってしまう。異質なものを見た、という戸惑いの方が大きかった。
どうもそれは食わず嫌いで、本当は女子サッカーは「かっこいい」と思いはじめ、おそるおそる女子サッカーのスタジアムに足を運びはじめる。読売ランドで、べレーザの練習風景を見たりもした。
「うーん、なんか面白いぞ」
そう思いながら、少しづつスタジアムに行く回数が増える。
誰か特定の選手のファンとかそういうわけではなく、単純に女子サッカーのプレイやゲームが格好よく、面白いのだ。
それと、不思議に女子サッカーを見ていると、サッカーのことがよくわかる。男子サッカーではわからないいろんなことが「なるほど」と納得できる。
ある日、僕のお客様の娘さんも、女子サッカーをやっている、という話が出てきた。
仕事の会議が終わった後に、エレベーターホールあたりで、娘さんの話を軽くかわす。地域のトレセンに娘が選ばれた、とお父さんはうれしそうに語っている。「まあ、本人が楽しそうなんでいいかな」と恥ずかしそうに付け加える。
二年前から僕の娘(小学3年生)がサッカーを始めた。男の子にまじって一人でサッカーをやっている。リフティング100回を目指しているが、まだ22回がやっとだ。
それでも、時々ゲーム中に「おっ!」と思うボール扱いを見せて、長い距離をドリブルしたりしている。
僕の娘のクラブには、6学年を通して4人の女子がいる程度だ。地域を見ても、何人かの女子選手がいるが、やはり数は多くない。
最近になって、地域の女子小学生だけを集めて、サッカーチームを作ってみよう、という話が持ち上がってきた。
北京オリンピックで、なでしこジャパンはベスト4で終えた。
緒戦のニュージーランド戦を引き分けた直後は、ネットにもひどい書き込みがいくつか見られたが、その後、彼女たちの活躍は、サッカーファンを超えて応援する波を広げていった。
彼女たちは走り、連携してボールを奪い、そのボールを奪われても、また走り続けた。
「本当に疲れていて……。そのときに(試合が終わった後に)初めて雨が降っていることに気がついた」
ドイツとの3位決定戦に敗れた後、ピッチに倒れこんだ宮間のコメントがたまらなくカッコいい。

最低限の結果は残せたと思っている。最後までみんなあきらめなかったし、やっていて本当に気持ちよかった。こういう舞台に立てた喜びを感じた。メダルという結果は残せなかったが、ものすごいものが心に残った。それは何にもかえられないと思う

「何にも変えられないもの」は、見ている僕たちにも残った。
それはメダルのように形のあるものではなかったが、悔しさと充実感の両方が同居する不思議な後味だ。サッカーフィールドを走り続ける彼女たちが、素直に格好よく、そして誇りに思えた。
「なんか女子サッカーを見てる方が、サッカーの面白さがわかるね」
テレビで見ていた妻がそう言って「でも悔しいよなぁ」と本気で悔しがる。
「女子サッカー面白いですね」「熱くなりましたね」というメールがいくつか僕の元にも届いた。
極めて個人的な話だが、女子サッカーのことを職場のランチタイムに話せる日常がやってきたのがうれしい。
これを機会に、女子サッカーを一気に普及させようという発言もあるようだが、現実の厳しさを考えると、僕は正直少し距離を置いている。北京の興奮もそれほど長くは持たないだろう。
さめて見れば、力を出し切ってもアメリカとドイツに勝てない、という現実だ。アメリカの女子サッカーの裾野の広さを思えば、しばらく日本は追い付けない気がする。
それでも、少しだけ山は動いた。
サッカーボールを蹴る女の子が、特別な存在ではなく、素直に「かっこいいじゃん」と多くの人が共感できる地点まで来た。まずはそのことが大きな成果だ。
北京のあと、サッカーボールを蹴る少女が増えるのか、根気よく見守っていきたい。


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コメント

  1. レン より:

    「女子サッカー」と検索したら、たまたまヒットしたので読ませていただきました。
    私は今中学3年の女子です。北京オリンピックの女子サッカー日本代表を見て本当に感激し、自分もサッカーをやりたいと強く思うようになった一人でもあります。でも、15歳からサッカーを始めるなんて遅いのではないかと悩んでいました。
    だけど、大内さんのこの記事のおかげで、私もやってみようかなと決意することができました。
    通りすがりの者ですが、本当に有難うございました。

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