木曜日か金曜日に、オニールはようやく現れる。そしてチームを鼓舞する彼の話が実にいいんだ。彼の話を聞いて、ロッカールームから出ると10フィートは大きくなっている
FIFA.com のインタビューよりアラン・スタッブスの言葉 2006年11月16日
マーティンオニールは、つかみどころがない監督だ。いろいろ、彼について調べるのだが、調べても調べても、彼の核心に迫る感じがちっともしない。
近寄りがたいわけでも、教授のように鋭く見えるわけでも、老獪な匂いもしない。発言も、他人を煙に巻いたり、哲学的な発言をするわけでもない。わかりにくいが、トリックも謎もない。
オニールが監督をつとめるアストンビラの成績は現在4位だ。毎シーズン、言われることだが、イングランドで4強の一角を占めるのは至難の業だ。アストンビラは、十分その可能性が見えてきた。
オニールが来る前のチーム状況から考えれば、間違いなくこれは監督の手腕だ。シーズン最後に、このまま4位以内にとどまれば、オニールは間違いなく名監督の一角を占める。
しかし、オニールには、名監督が持つべきカリスマ性がない。
僕はマーティンオニールがウディアレンに似ていると思ったが、いや、三谷幸喜に似ている、という意見もあり、マンガ「ジャイアントキリング(5巻は感動!)」に登場する日本代表監督のブランにそっくりだよ、という少年もいた。
サッカー監督が出る刑事モノのテレビ番組に出ても、彼は刑事役にはならない。スコラーリとファーガソンがいる刑事課では、面構えがちょっと役不足だ。せいぜい、時効管理課(?)の課長といったところか?
本当かどうかはわからないが、オニールは、犯罪を調べることが趣味だという。
もともと大学で法律を専攻し、そのあたりから、犯罪に対する興味が強くなったらしいのだ。
ノッティンガムフォレストの選手時代も、有名な裁判の傍聴席に座るために並んだり、犯罪の現場を回ることが彼の休暇の楽しみだった、というから、半端じゃなさそうだ。
ケネディ大統領が狙撃された教科書倉庫を訪れたり、犯人と言われているオズワルドが撃たれたダラスの警察署をわざわざ見に行っている、とそんな話まである。(Times Online 2007年7月29日の記事)
僕は、ダラスの教科書倉庫を見上げるオニールというのを想像してみた。
「あれ、オニールさんじゃないですか? ダラスまで来て、いったい何を?」
「あ、いや、実はケネディの暗殺についてどうしても疑問が残っていましてね。私は、そう犯罪を調べていましてね。まあ、趣味で、、、」
「趣味、、、ですか?」
いったい犯罪を調べることと、オニールのサッカーにつながる部分はあるのだろうか?
彼が探偵のように、犯罪のトリックを見破ろうとしているとはとても思えない。
いったん、確定した犯罪も、根本から見直すと、見逃していた真実が見えてくる。その真実に行きあたると、ダラスの暗殺現場に立った時、その風景は違って見える。
そんなところだろうか?
オニールのチームが作り出すサッカーも、本人同様、明確な特徴がつかみづらい。
しかし、とても基本に忠実で、当り前のことをやりとおすエネルギーに満ちている。実はそれが不思議だ。
選手はよく走り、守備の戻りも早く、必ずサポートする選手が二人三人と連動していく。ボールを奪っても、攻撃のスピードは速く、すぐに何人かが切り替えて長い距離を走る。サイドをうまく使い、センタリングの精度が高い。ゴール前でサイドを広く使って、相手を崩していくのも、よくみかけるパターンだ。
相手によって闘い方を露骨に変えてくることはなく、チェルシーだろうと、リバプールだろうと、闘い方の基本は変わっていない。
基本的には4強相手でも、すごく基本に忠実な感じのサッカーを真正面から、ぶつけてくる。逃げもしないし、トリックも使わない。
それはモウリーニョの作りだすサッカーとは対極にあるように思う。モウリーニョは、サッカーの試合が始まる前から、メディアさえ使って、勝つためのトリックとトラップを駆使して進んでいく。
オニールは、セルティックの監督時代、そんなモウリーニョ(当時ポルト)とUEFAカップで戦っている。決勝で3-2で負けているのだが、その時のオニールのコメントがおかしい。
本に書いてあるプロフェッショナルなトリックが全て使われ、ポルトにレッスンを受けているようだった。しかしあれは私が自分の選手たちに望むような振る舞いではなかった
Times Online 2007年7月29日のインタビュー
特に今シーズンのビラの戦いで、僕の中で記憶にあるのは、エバートンとアストンビラの試合だ。この2つのチームの戦いは、攻守の切り替えも速く、ほとんどよそ見をする時間がなかった。
最後は、ビラの劇的な勝利で終わったが、正攻法でずんずんスピードを上げて進み、ゲームのまさに終盤に、選手の力が最高潮に達して、チーム全体で勝利を呼び込んだような一体感があった。
特徴がないのに、アストンビラのサッカーは、見終わった後に、爽快感が残る。
じゃあ、この監督は、どんな監督なのかと思うと、普段の練習は、まったくコーチ陣にまかせきっているらしい。じゃあオニールは何をやっているか、というと、とにかくロッカールームなどでの話がうまくて、チーム全体のモーチベーションを上げるのだという。
以下は、セルティック時代にオニールのチームにいたアラン・スタッブスという選手のコメントだ。
木曜日か金曜日に、オニールはようやく現れる。そしてチームを鼓舞する彼の話が実にいいんだ。彼の話を聞いて、ロッカールームから出ると10フィートは大きくなっている。彼は僕にとって、完璧な監督だよ
10フィートも選手の背を高くする話って?
それを知ることはできないが、彼がモーチベーターとして優れていて、選手たちに話すとき、選手たちの力と自信は最高潮になっていく。そして、そこで話せることは、ごく当り前の基本なのだ、と想像ができる。率直でレトリックのないシンプルな言葉、それが選手たちの自信を引き出すのだ。
ある試合での変化は小さいが、サッカーの基礎は大体同じなのだとわかると、ありがたい事に、選手たちの応用力は実に素晴らしい
FIFA.com 2006年11月16日のインタビュー
オニールを調べれば調べるほど、よくわからない。わからないのは、彼が当たり前のことをしているからだ、とそんなふうに思えてくる。
でも、だからなのか、じわじわとその凄さが染み込んでくる。当り前の基本しか実行しない凄さ。それがオニールの核心だろうか?
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