グアルディオラ ペップの二年目

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「なぜなら、サッカーとはそういうものだからです。いろいろな事情があろうとなかろうと、最後にはいいサッカーをした者が勝つ」
スカイパーフェクTV!「for football インタビュー」(2003年3月 片野道郎氏がウェブ上に掲載)

グアルディオラのように、しょっぱなから最高ともいえる栄光を手にした監督は、2年目が、かなり大変じゃないだろうか?
栄光の翌年も、モーチベーションを失わず、チームをさらに先に進めるのは、とても難しいことだ、と聞いたことがある。
優勝、もしくは優勝に絡んだチームが、次の瞬間、監督の解任騒動になっていることは、サッカーでよく見かける風景だ。
メディアの無責任な批判、オーナーの介入、わがまなな選手のふるまい。そういったものが一斉に監督に向って降ってきて、チーム全体が背を向けたように見えてしまう。
グアルディオラが、同じような穴に落ち込むのだろうか?
まあ、いらぬ心配なのだが、、、このシーズンオフ、僕はなんとなくグアルディオラ監督のことを考えながら、過ごした感じだ。
グアルディオラについて、とりわけ印象的なのは、ゲーム中に、ライン際で目を見開いて、手を大きく振り回しているその姿だ。細身の薄い体にスーツを着て、少し神経質で、とても早口でしゃべっているように見える。
あの姿、みんなはどう思うのだろう?
もし、バルセロナの名監督という事前の刷り込みがなければ、とてもスポーツの世界の人とは思わないかもしれない。神経質で口うるさい、顔の濃いおにいさんにしか見えないのではないだろうか?
でも、そうではないようだ。
「私、あのタイプ、相当好きです」とサッカーをあまり知らない知人の女性にそう言われて、ちょっとびっくりした。
どのくらい好きなのかというと、「思わず画像をデスクトップに保存してしまうくらい」だという。「グアルディオラが?」僕はそう思わず聞き返したくなった。
顔がいいのか?
決して、顔が悪いわけではないだろうが、もっとセクシーなサッカー選手はいるはずだ。驚いたことに、彼女は、ペップの醸し出す信念と知性と誠実さに惹かれたらしい。ウェブの画像や動画を通してさえも、そんなものが伝わるのだろうか?
確かにペップは、彼女が感じたように、信念と知性と誠実さの人だ。
2001年セリエAのブレシアで、禁止薬物の陽性反応が出てから、彼は自分の無実を証明するため、何年にもわたる長い長い裁判を戦ってきて、今でもそれは終わっていないようだ。
(2007年に一度、無実の判決が出たのに、最近またイタリアの裁判所は上訴したというニュースがあった)
そんな、悪い事態の中でも、グアルディオラの発言というのは、落ち着いていて、信念と誠実さと知性が、感じられる。

「人生にはこういうことが起こるものだ。今回はたまたま私に当たり、精一杯うまく生きていこうと思った。復習したいとは思わないけど、私のケースが役立ってほしいとは思う。スポーツ裁判所は、世界に向かって有罪を発表する前にもっと慎重であってほしい」
(footballista #052 グアルディオラ ドーピング疑惑との戦いに6年越しの勝利)

「これからは、ドーピング検査にひっかかった選手を調べる際、今よりももっともっと根本的な調査が必要だ。それは、検査によって見つかった物質が、その選手にとっていったいどのような意味があるのか。科学的な手段によるその物質の検査が絶対必要なんだよ」
(4か月の出場停止処分が下った際のグアルディオラの記者会見より)

グアルディオラのインタビューは、多くない。日本語と英語のものを探すのは骨が折れる。それでも、ようやく見つけた言葉の端々に、グアルディオラが他の誰とも違う人間だ、ということが伝わってくる。
ペップは、どんな裁判関係者よりも、ずっと科学的な知識を得て、薬物に関するその知識は、医者のレベルになっていたようだ。そうやって得た知識を、しかも、どのように役立てるべきかも、彼はよく心得ているように見える。
そして誠実さ。自分が苦しいにも関わらず、他人のせいにしたり、誰か特定の人物を責めることもなく、本当に正しいことが何かを誠実に伝えようとする。
サッカーの言葉を探しても、その印象は変わらない。選手や周囲のスタッフ、相手チームをレスペクトし、誠実で、そしてぶれない基本にいつもしっかりと両足で立っている。規律に厳しく、手を抜くことをとことん嫌う。

「しばしば楽しむという言葉は誤解されやすい。努力と規律に励むことも、それは楽しいことなんだということを忘れてはいけない」
(footballista #056 ジョゼップ・グアルディオラ インタビュー)

「特別な方法なんてないよ。いい選手がいる、それが全ての鍵だ。彼らがいなければ、決勝にはいなかった。選手たちが、チームそのものなんだ。僕はただ修正をしただけだ。よいものを残し、悪いものは排除しただけだ。」
uefa.com 2009年5月27日 チャンピオンズリーグ決勝前日の記者会見

「シーズンを通した順位表は絶対に嘘をつきません。ぼくはバルサで6回優勝している。その6回とも、ぼくたちは他のどのチームよりもいいサッカーをした。そうじゃない年には優勝できなかった。
なぜなら、サッカーとはそういうものだからです。いろいろな事情があろうとなかろうと、最後にはいいサッカーをした者が勝つ」

ペップは別格だ。僕はシーズンオフに、彼の発言を読みながら、そう信じることができるようになった。スペインリーグが開幕した。長いシーズンは多くの課題やトラップが待っているだろう。それでも、グアルディオラのもとで、二年目以降も栄光を刻むことができるだろう。
かなり心配だったイブラヒモビッチのユニフォームも、思ったよりも似合っている。


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