「プロになってもお客さんは戦術を観に来るわけではない。うまい選手がみたいわけだし、生き生きした選手を見たいわけでしょ」
風間八宏氏 筑波大学蹴球部監督(2008年4月19日 フットボール定食)
大学サッカーをはじめて見た。
知り合いの息子さんがプロを目指してプレイしているので、その姿を前から見たいと思っていた。
今シーズンは、Jリーグがはじまっても、仕事が狂ったように忙しくて、土日も思うようにスタジアムに行く時間が取れない。情けない話だが、今シーズンはまだスタジアムに足を運べていなかった。最初のスタジアム観戦が、駒沢陸上競技場の専修大学対駒澤大学の試合になった。
試合の方は残念ながら、応援した専修大学が0‐2で負けた。技巧的にうまいチーム(専修大学)に元気が足りなくて、うまくないチーム(駒澤大学)の勢いが、球ぎわを制し、セカンドボールを呼び込む、という試合だった。
専修大学の選手たちが、悪い流れを打開できるか、という点に注目したが、局面打開にはいたらず、流れは変わらずに試合が終わった。
注目していた選手は、何度かシュートを試みたが、残念ながらゴールの枠をはずれた。
ただ、いい動き出しと、パスを出した後の切れ味のよい動きが印象的で、一度はペナルティエリアの中で、目を奪うようなパスを展開した。もっと見てみたい、という気持ちが残った。
あくまで第1印象なので、乱暴な感想だが、技術もフィジカルも高かったが、ここしばらく見てきた高校年代のクラブユースと比べて「サッカーが面白かったか」というと正直、そうではなかった。
もちろん、高校生より大学サッカーのレベルが低い、と言いたいわけではない。スピードもパワーも技巧も上だったし、当然、ミスも高校生の方が多い。
しかし、目の前の大学サッカーは、いささか荒く展開していて、フィールドの使い方も狭く、ゲームの作り方にも、物足りなさが残った。
いや、たぶん本当に物足りなかったのは、選手たちの印象の方だったのかもしれない。目の前でプレイしている選手たちには失礼な言い方になるが、ビンとこちらに伝わってくるものが足りないように思えた。
フィジカルも強くなり、走りもぶつかりあいも迫力があるのだが、一方で「この瞬間は自分のものだ」という選手のエネルギーは、ほんの少し足りないように思えた。
時折見せる、選手たちの光るプレイは、しかし、本当はもっとできるんじゃないか、まだ出し切っていないんじゃないか、という疑問のままに、次のプレイに消えていった。
高校生の方が、気の抜けた試合や場面は多いだろうが、しかし、ある瞬間に見せる、単位時間あたりのエネルギー量みたいなものは、高校生たちの方が高いのかも、とそんなことを考えた。
しかし、何しろ、まだ一試合目だ、もう少し何試合か見てみないといけない。
最近は、高校から直接Jリーグに行く道より、ユースから大学経由でJリーグに行く道路の方が太くなっている。そのせいなのか、大学サッカーのパンフには、よく見た名前が並んでいた。
筑波大学には風間八宏、法政大学には川勝良一と水沼貴史の顔が並ぶ。東海大学には山口素弘がいて、明治大学にはジュビロからFC東京でプレイした川口信男がいる。二部に落ちてしまったが順天堂大学には小村の顔もあった。
そして、僕が見た日の観客席には、元甲府監督の大木武さんが座っていた。詳しい人の話では、観客席には、その他にも、Jのスカウトたちが座っている、ということだった。
以前にもある人から「大学サッカーが一番、ポテンシャルが大きい」という趣旨の言葉を聞いた。それがほんの3年前ぐらいだったが、そこから、急速に大学サッカーとJリーグの血が混じりはじめ、その距離は近くなりはじめているようだ。
それは選手たちにとっても、大学サッカーにとってもよいことなのだろうが、肝心なゲームのレベルが、向上するのか、という点は僕にはまだわからない。
素人目には、観客にとっても、わくわくするようなプレイやゲームが展開されてほしいと思うが、そのためにはプレイする選手を見守る「観客」という存在は、大きいのかもしれない、と思った。
僕の後ろの席では、二人の女の子が自分の目当ての選手に興奮した声を(小声で)送っていたが、見渡したところ、そういう純粋で無責任な観客は他にはいないように思えた。
今日の試合を見る限り、会場はかなり「玄人っぽい」「業界」の雰囲気に包まれていて、選手たちには、一般の観客よりも、「関係者」の視点を意識してしまうのかも、と思った。
大学サッカーの選手の意識の持ち方は、日本サッカーの未来に少し影響があるかもしれない、と帰り道にぼんやりとそう思った。
そして、それは戦術や技術の面で、プロに近い試合をする、ということではないように思えた。
観客が盛り上がり、選手たちが能力以上の力を発揮する。本当はそういう場があることが理想なのだろう。足りない感じを抱いたと書いたが、プレイしている選手を責めるつもりは毛頭ない。力を発揮するためには、それだけの場の力が必要で、そこには「見る人」が不可欠なのでは、と思ったのだ。
できれば、これをきっかけに、もう少し大学サッカーの試合を見ていきたい。大学サッカーがJリーグと接近するのはよいとして、もっと無責任で純粋な観客を呼ぶためのマーケティングが、本当は必要なのかも、とそう思った。
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