「(ベンゲルとオシム)2人の練習のやり方はまったく違っていたけれど、同じ方向を見ていた」
二人の監督を経験した望月重良の言葉 2007年3月 THE STUDIUM
「オシムとベンゲルの練習が似ているのではないか」という質問がインターネットのQ&Aサイトにあった。プレッシャーをかけながら練習をして組織を作っていく、そんな点が似ていると思うのだがどうでしょうか?
そんな問いかけを誰かがしていた。
そんなこと二人の練習をじっくり見比べた人でなけりゃ、わからないよ。そう思ったが、何かがひっかかった。
ベンゲルとオシム、二人に共通点は少ない。
まず体型が全然違う。ファッションも、スーツとジャージでまったく違う。ベンゲルは寝ている時でもスーツを着てそうだ。オシムはジャージのまま、サッカーのテレビをつけっぱなしで寝ていそうである。
生まれた国も、選手としての経験値も共通点は見つからない。
ベンゲルには精緻に組み上げた計画性が感じられ、オシムはむしろ、その場その場で考える臨機応変さが真骨頂だ。
ベンゲルはいつも明快な答えを用意し、オシムは巧みな言葉で煙にまいた。
しかし、オシムもベンゲルも、遠い島国に来て、決して強くないチームを、短い期間で見違えるチームにした。
チームの主力が抜けても、二人のチームは高いレベルを保ち続けた。さすがに主力級が抜けてはもうだめだろうと思っても、残った選手でチームをトップレベルに持っていった。
そう考えれば、何か二人に共通な、特別な方法があったとも思えてくる、、、
ジャンクスポーツにベンゲルとオシムの二人が出て、浜ちゃんにつっこんでもらえば、面白い共通点がわかるかもしれない。
両方の監督を体験した選手が誰かいないだろうか、と考えていると、望月重良という選手が二人について語っているインタビューを見つけた。
静岡のサッカーエリートで名古屋に入団し、日本代表にもなり、最後は横浜FCで2007年に引退した望月は、ベンゲル時代の名古屋と、オシム時代の千葉を経験していた。そして二人の監督について語っているインタビューが見つかった。
(THE STADIUM http://thestadium.jp/top/special/)
望月はインタビューに答えながら、ベンゲルとオシムはまったく違います、と語っている。むしろ共通点をみいだすのが難しいぐらいだ、と笑う。
「ベンゲル監督は隙がない印象ですね」とインタビュアーに聞かれて、望月は答える。
「そうだとすれば、オシムは真逆。正反対でした。試合が終われば、ビールも飲むしバスの中でカードをしてリラックスしている。ベンゲルのように隙が一切ないのではなくて、隙や弱みも平気で見せてしまう」
やっぱり二人は全然違うのか、と思ったが、その後に望月が続ける。練習から感じるものは同じだったと。
「(ベンゲルとオシム)2人の練習のやり方はまったく違っていたけれど、同じ方向を見ていた。やはり選手が飽きることがないし、組織力の向上のためにメニューがある」
二人の練習は全然違ったが、感じたことは同じだった。そう望月は言っている。
二人の練習の共通点は、選手の集中力が非常に高くなった点だという。
そりゃプロの練習なんだから、当り前だろうと思うのだが、プロの豊富な経験から見ても、集中の質が驚くほど高かったというのだ。
望月の記憶では、ベンゲルは一度も同じ練習をしたことがなかったという。選手は常にコーチの声に集中していなければならない。
オシムもその意味では同じだ。次に何が起こるかまったく予想がつかない。高い集中力が練習の間ずっと続く。「頭が疲れる練習」オシムの練習を経験した選手が共通に漏らす感想だ。
二人は、選手の組織をどう作るか、どう組織的にプレイさせるか、という点で同じ方向を向いていた、とも望月は言っている。
プロなら組織的なチーム作りというのは、普通だろうと思えるが、望月にとってベンゲルとオシムの練習はそれぞれに革命的だったようだ。
オシムの言葉は解釈が難しい。僕らは共通にそんな印象を植え付けられている。
しかし、望月によると、練習で選手たちに発するオシムの言葉は極めてシンプルでわかりやすかったという。
ベンゲルもその点では同様だ。練習中の言葉はとてもシンプルだった、という。自分に求められていることがすごくわかりやすかった、と当時の名古屋の選手は語っていた(96年Number387「智将ベンゲル」の記事)。
ベンゲルは、精緻な型に選手をあてはめる監督のように見えるが、実際には違うようだ。名古屋でもアーセナルでも、そのチームが持っている強みに向かい合い、個々の選手が力を発揮できるように取り組んでいく。文化の違う日本で選手と向き合って、そのことが深められたと、ベンゲルは自身の著書で語っていた(「勝者のエスプリ」)。
オシムも同様に、選手からチームを考えていく監督だ。
二人は、決まった型に選手をはめていくわけではない。組織として守るべきルールをいっぱい書き出して、選手に復唱させたわけでもない。
選手の個性を引き出し、どんな場面でも組織的に動くチームを作り上げる、そんな練習ができたのだ。
「練習でやったことが、必ず次の試合で効果を表す」
ベンゲル時代の名古屋の選手、オシム時代の千葉の選手は、共通にそんな驚きを口にしていた。そして、控えの選手たちでさえ、監督の判断に全幅の信頼を寄せていた。その点も二人は同じだ。選手たちにどのような役割を与えて、どう組み合わせればよいか、いつ誰を投入すれば効果を表すか、その感覚においてオシムとベンゲルは絶妙だったのだ。
「二人の練習が似ている」とは言えないようだ。
それでも、調べるほどに「同じだ」と言いたい気持になる。
そしてふと疑問がわいてくる。岡田監督の練習はどうなのだろうか?
遠藤や啓太、選手たちは肌で感じているだろう。本音を聞きたいが、語ってくれるのは、すべてが終わった後だろうな。
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